2022年11月18日 1748号

【読書室/普及版 関東大震災 朝鮮人虐殺の記録 東京地区別1100の証言/西崎雅夫編著 現代書館 2500円(税込2750円)/殺さない・殺させない社会をつくるために】

 関東大震災時の朝鮮人虐殺を伝える文献はたくさんあるが、まずはこの一冊をお勧めする。人びとの証言が東京23区別にまとめてあり、エリアマップも付いているので、当時の惨状を現在に重ね合わせてイメージすることができる。

 たとえば、東京の団結まつりの会場でおなじみの亀戸中央公園にほど近いJR亀戸駅周辺(江東区)である。火災による焼失をギリギリ免れたこの地域には、多くの避難民が集まっていた。そうした中「不逞鮮人襲来」の流言が広がり、迫害・殺戮が始まった。

 「町で実際に朝鮮人が殺されるところを目撃したこともあった。歩きながら殺されていった。いきなりうしろから頭を割られ、それでも歩いていて、ついに倒れると背中やお腹を金属の棒で突いているのである」。シャープ創業者、早川徳次の証言である。

 青年団の役員だった人は軍が武装を促したと語る。「戒厳令がしかれて、一般の者も刀や鉄砲を持てと軍から命令されたんです。それでみんな家にある先祖伝来の刀や猟銃を持って朝鮮人を殺(や)った。それはもうひどいもんですよ」

 亀戸駅北側にあった亀戸署では、多くの朝鮮人に加え、社会主義者や労働運動家が捕らえられ、治安出動していた習志野騎兵連隊によって惨殺された。世に言う亀戸事件である。

 「アタシが若い人に言いたいのは、地震そのものより、火事とデマが怖い。朝鮮人襲撃云々も、ありゃデマじゃないの」。この証言を重く受け止めたい。デマによって多くの朝鮮人が殺された事実を行政機関が消し去ろうとするなんて、防災の観点からも許されない犯罪行為なのだ。 (O)
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