2022年11月25日 1749号

【円安―貿易赤字でも大儲けのグローバル大企業 賃上げ 消費税減税実現 経済政策の抜本的転換を】

 円安が依然として止まらない。日銀の黒田総裁は急速な円安に、11月2日の衆院財務金融委員会で「条件付き円供給修正の可能性」を口にした。だが、その具体策は示されなかった。

 為替レートを左右する主な要因に、貿易収支、金利差、投機的売買の3つがある。金利差は本紙前号で触れ、また、短期的動向に影響する投機的売買は厳しく規制すべきとした。今回は、中長期的な動向にかかわる貿易収支について考える。

貿易赤字は富の流出

 貿易収支は「財貨(物)の輸出入の収支を示す」(財務省)ものであり、輸出額から輸入額を差し引いて計算する。輸出額が輸入額より多ければ貿易黒字、輸入額が輸出額より多ければ貿易赤字となる。

 貿易赤字では、自国通貨(たとえば円)を外貨に交換する必要度が高くなるため自国通貨(円)が安くなる。貿易黒字ならば、相手国から受け取る外貨が増え、それを自国通貨(円)に交換するため自国通貨(円)が高くなる。

 日本の貿易収支を見てみよう。2022年度上半期(4〜9月)の貿易収支は11兆74億円の赤字である。輸出額は前年比19・6%増であったものの、輸入額が同44・5%増だったため、半期では過去最大の赤字になった。下半期も貿易赤字になると予測されている。



 「貿易赤字の垂れ流しは、富の国外流出」(9/15ロイター)といわれるように、貿易赤字は円安の継続につながっていく。2011年から貿易収支が赤字基調となっており、そこには赤字を生み出す構造的な問題が横たわっている。

 円安になれば輸出企業が大儲けをする。輸出産業の代表である自動車を見ると、9月の貿易統計によると前年比122・2%も増加させた。ところが、9月の全体を見ると、輸出が前年比28・9%増に対し、輸入が同45・9%と伸びは倍近い。結果、2兆940億円の貿易赤字となっている。

輸出企業 商社は高収益

 トヨタは円安効果だけで来年3月期決算で1兆850億円の営業利益増を見込む。一部の輸出大企業が円安で儲ける一方、貿易赤字を増やしているのだ。

 これは日本全体の経済力が低下していることを示す。

 貿易赤字を生む構造的な問題の一つに生産の海外移転がある。これも円安の下で収益増を生み、グローバル大企業や三菱商事・三井物産など大手商社は過去最高益を更新している。

 円安になると輸送費などが高騰するので生産の国内回帰の動きもあるが、大企業は「日本経済の期待成長率が低下し国内生産能力拡大に踏み切りにくいほか、人手不足の深刻化により雇用確保が困難」(三井住友信託銀行調査月報10月号)として、そう進めていない。

 資本が目先の利益確保至上主義で動く日本経済の現状では、国内での投資に消極的で、貿易収支の改善は見込めない。投機的売買は収まらず、金利差はさらに広がろうとしている。円安状態のままとなり、市民生活を直撃する物価高が続く。

まず人びとの収入増を

 物価高対策の柱は、まず人びとの実収入を増やすことだ。急場をしのぐための一時的な給付金や補助金が緊急に必要だが、何より収入増を定期的なものにすることだ。実収入が増えると買い控えを抑えられ、経済活動が順調になる。その結果、経済力が高まり、貿易収支改善が進むことで為替レートも落ち着いていく。

 そのために、賃上げや年金引き上げを求めなければならない。賃上げの全体化や最低賃金引き上げには中小零細企業の業績を上げる必要があり、中小零細が正当な経済活動を行える条件(大企業の買いたたき防止、政府の支援策充実など)を整えることが不可欠だ。

 物価高は消費税額を増やし、実質増税となっている。消費税の引き下げ―廃止は待ったなしだ。消費税(付加価値税)減税は、すでに世界96か国で行われている(9/12全国商工新聞)。過去最高益を上げ続ける大企業、資産を増やし続ける富裕層に課税強化すれば、財源を作りだすことは可能だ。

 経済政策の抜本的見直しと転換で生活改善を図ろう。
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