2022年11月25日 1749号

【311子ども甲状腺がん裁判口頭弁論/「放射線被ばくが原因」確率95%以上/原告女性「病気が自分でよかった」】

 福島原発事故に伴う放射線被ばくにより甲状腺がんを発症した若者7人が東京電力を訴えた「311子ども甲状腺がん裁判」の第3回口頭弁論が11月9日、東京地裁であった。原告側は「被ばくが原因でがんになった確率は、公害裁判などで因果関係を認めた水準より、はるかに高い」と説得力ある主張を展開した。

 事故当時6〜16歳だった若者たちが勇気をもって立ち上がった裁判。開廷前のアピール行動には多くの市民が駆けつけ、25席分しかない傍聴券を求めて148人が列を作った。

 井戸謙一弁護団長が、次々回3月15日の期日から大法廷での審理が復活すること、今回で最後とされていた原告本人の意見陳述があと2回認められ、7人全員が陳述できる見通しとなったことを報告。「原告意見陳述と大法廷での裁判を求める署名」計1万9151筆を集めて提出した取り組みが、裁判所を動かした。

 米シカゴ大学名誉教授のノーマ・フィールドさんがマイクをとり、「孤立と沈黙を強いられてきた中で、仲間を見つけることがどれほど大事か。それをきょうここで肌で感じられることに感謝。日本は核物質の被害を否定する先端国になろうとしている。それを覆しましょう」と呼びかける。

 グリーン・アクション代表のアイリーン・美緒子・スミスさんは「胎児性水俣病患者のお母さんから『頑張ってください』とのメッセージを預かっている。患者たちが『水俣の復興にならない』とバッシングされながら闘った結果、7万人以上が救済された。若い原告が先頭に立つこの裁判とつながる。福島の復興のために一番頑張っているのが彼ら彼女らだ」と語った。

因果関係は明白

 法廷と並行して弁護士会館で集会が開かれ、原告側の陳述を映像で再現した。この日のポイントは、岡山大学の津田敏秀教授が作成・提出した意見書。放射線被ばくにより甲状腺がんに罹患した可能性を疫学の手法で割り出した結果を「原因確率」と呼ばれる数字で示している。

 原因確率とは、原因物質に曝露(ばくろ)し疾病に罹患した集団の中で、曝露によってもたらされたと推認できる増加分が占める割合を表す指標。プレゼンテーションした西念(さいねん)京祐(きょうすけ)弁護士は「これまでの公害事件等の原因確率は大気汚染で50〜67%、原爆症で10%以上、じん肺で50〜75%。一方、津田意見書が評価した福島県の先行検査における小児甲状腺がん発見の原因確率は96・8%、2巡目検査では97・3%と極めて高い。事故による放射性物質への曝露と原告の甲状腺がん罹患との間の因果関係は一目瞭然。データに基づき疫学的エビデンスに導かれる科学的結論を、あいまいな憶測によって歪め否定することはできない」と指摘する。

 被告・東電側の「甲状腺等価線量100_シーベルト以下では甲状腺がんの発症リスクは増加しない」との主張に反論したのは、井戸弁護団長。2016〜17年に公表された二つの専門家論文が「100_シーベルト以下でも線量に応じてリスクはある」「しきい値は存在しない」と結論づけていることを紹介し、「被告の主張には全く根拠がなく、『国際的に合意された科学的知見』などという大げさな修飾語は空虚」と断じた。


光る原告の陳述

 事前に録音された原告の女性の意見陳述が流れる。「文章で自分が思ってることを伝えるのは得意ではない」と断りつつ、震災当日から検査・がんの診断・通院・手術・再発そして薬を飲み続ける今に至る経過を15分間にわたって語った。「漠然とした不安。今とか未来とか、実際、やばい」「でも私は、病気になったのが身内や友達ではなく、自分でよかったなと思う。友達や家族が罹(かか)ったほうがつらいんじゃないか。今でも友達が心配」「裁判官には、今もこれからも不安に思う人が300人以上いてその家族たちも不安に思っていることを伝えたい」

 陳述書の作成をサポートした古川(こがわ)健三弁護士は「寡黙なお嬢さんだが、書かれた言葉は光っていた。一番ドキッとしたのは『自分でよかった』。とはいえ『過剰診断』論に対しては『残念』『複雑な気持ち』と話してくれた」と振り返る。

 裁判は中心的な争点をめぐって議論が交わされる重要な局面にさしかかった。井戸弁護団長は「向こうは言うだけ。こちらはちゃんと証拠を提出している。圧倒的にこちらが優位に立っている」と述べ、引き続く支援を訴えた。「311甲状腺がん子ども支援ネットワーク」は裁判を応援するマンスリーサポーターを311人を目標に募集中だ。

 次回口頭弁論は1月25日午前11時。9時半からリレースピーチがある。

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