2022年11月25日 1749号

【「健康保険証の廃止」で脅迫/マイナンバーカードなぜ強制/国家と資本のための「利活用」】

 現行の健康保険証を2024年秋に廃止してマイナンバーカードに一体化した形に切り替える方針を政府が打ち出した。思うように進まないマイナンバーカードの普及を一気に進めるためだ。強行すれば大混乱は必至だが、政府はなぜそこまでしてマイナンバーカードを持たせたいのか。

河野大臣のハッタリ

 マイナンバーカードの個人認証機能を利用して健康保険証の有効性が確認できるシステムの本格運用が昨年10月から始まった。ただし利用登録数はカード取得者の4割ほど。専用読み取り機などを備えた医療機関は約3割にとどまる。

 こうした事態に業を煮やしたのか、河野太郎デジタル相は紙(印刷物)の保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードに一本化すると宣言した。もっとも「廃止」は河野大臣のハッタリにすぎない。

 「被保険者証の交付」は法律で義務づけられているし(健康保険法施行規則第47条)、そもそもマイナンバーカードの発行は個人の申請で行うものだ。法的には任意のカード取得を、健康保険証を「人質」にとるかたちで事実上強制するなんて、明らかな違法行為というほかない。

利用者にメリット無

 ここでマイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせること=いわゆるマイナ保険証の仕組みを確認しておこう。医療機関や薬局は、患者らが加入している医療保険の資格を確認する作業を行っている。この確認作業を自動化する。

 マイナンバーカードのICチップに搭載された公的個人認証サービスのための電子証明書を専用のカードリーダーで読み取り、オンライン上で資格確認を行うのである(電子証明書の発行番号と被保険者番号を紐付ける初回登録が必須)。

 「なりすまし利用」を防ぐために、受診等の際には顔認証による本人確認を行う(カードリーダーの顔認証機能を使う、または窓口担当者の目視による確認)。4桁の暗証番号を自分で入力する方法もある。

 以上が大まかな説明だが、利用者側にたいしたメリットがあるとは思えない。現行の健康保険証でもオンライン資格確認はできる。窓口担当者が記号番号等を入力すれば済む話だ。

 その作業が煩雑、手入力は間違えるおそれがあるというのなら、被保険者番号などの情報をQRコード化して保険証に印刷しておくという手もある。それに最新のカードリーダーは紙の健康保険証から情報を読み取る機能が付いている。わざわざマイナンバーカードを使う必要はない。

 「マイナ保険証にすれば、特定健診情報や診療・薬剤情報・医療費を見ることができる」と政府は宣伝するが、そうした情報は自分で管理すべきものである。大体、マイナポータル(政府が運営するオンラインサービス)にアクセスするよりも、紙の「お薬手帳」を見る方が手っ取り早い。

医療費抑制の狙い

 利用者側のメリットはほぼゼロ。医療機関にとってはシステム整備などの負担が大きい。それでも政府はマイナ保険証への切り替えを強行しようとしている。マイナンバーカードをすべての人びとに持たせたいからだ。その狙いを、医療費抑制と個人情報のビジネス利用の2点に絞って、解き明かしてみよう。

 政府はパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)を「利活用」するシステムの構築を急いでいる。PHRとは、健康診断結果や服薬履歴といった個人の医療・健康情報のこと。これを生涯に渡って把握し、一覧性を持って提供できるようにするという。そのためにマイナンバーカードの活用がうたわれている(骨太の方針2020)。

 目的は「日常生活改善や健康増進につなげるため」とされるが、それは表向きの理由にすぎない。根底には医療費抑制の意図がある。市民一人ひとりに自助努力を促す装置としてPHRを機能させたいのだ。

 小泉進次郎をはじめとする自民党若手議員グループが「健康ゴールド免許」の導入を提唱したことがあった。個人ごとに健診履歴等を把握し、健康管理に取り組んだ者を優遇することで自助を奨励し、医療費の抑制を図るという政策である。これを具体化する仕組みを政府は作ろうとしているのではないか。

メインはビジネス用

 そして、「利活用」にはビジネス利用も含まれている(むしろこちらがメインだ)。厚生労働省のデータヘルス改革推進本部は、個人が自分の医療・健康情報を閲覧するだけではなく、民間のPHR事業者や健康増進サービス提供事業者を通じた情報を利用できるようにするとしている。

 これは個人の医療・健康情報が民間企業に渡ることを意味する。提供は本人の同意が前提になるだろうが、企業側は巧みに誘導するだろう。個人の健康状態に応じた商品やサービスの宣伝・勧誘が可能になるだけで、巨大なビジネスチャンスだからである。

   *  *  *

 “マイナ保険証による資格確認にマイナンバーは使われない。そもそもマイナンバーの利用範囲は法律で限定されている。よって個人の医療情報が流出したり、勝手に使われるおそれはない”と政府は説明する。しかしそれはあくまでも現時点での話だ。

 マイナンバーカードの利用が当たり前の環境をつくってしまえば、「持たない自由」に配慮する必要などないと政府・グローバル資本は思っている。現に、初代デジタル大臣を務めた平井卓也衆院議員はこんな発言をしている。「マイナンバーカードの活用を是非をいちいち国民に聞いて進めるものではない」(10/26幕張メッセでの講演)

 これが連中の本音である。「健康保険証の廃止」という脅しにあわてふためき、マイナンバーカードを持つのは危険すぎる。 (M)



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