2023年02月03日 1758号
【コロナはただの風邪ではない/「インフル並み」はごまかし 医療態勢放棄は命を脅かす】
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1月20日、岸田首相は、新型コロナ感染症について、感染症法上の「2類相当」から外すことを表明した。「ウィズコロナ」で政府・メディアが進めるコロナは重症化しないただの風邪<Lャンペーン。それでいいのか。エビデンス(科学的根拠)に基づく医療を求める医療問題研究会・山本英彦医師に自らの体験も交えて寄稿してもらった。
神経系合併症 後遺症も
昨年8月新型コロナに感染した。発症2週間後になっても自宅で床を離れることができず緊急入院となった。そのころからボーッとした状態がそばから見ても目立つようになり、後から振り返ると、とぎれとぎれの記憶、物事の判断がつかない状態などが出現した。発症2か月後退院。退院数日前から意識ははっきりし始め、発症3か月後、幸い、現職復帰となった。定義上は新型コロナ感染症の急性期に合併発症し、1か月以上続いたコロナ後遺症「Long COVID」であった。
私の経験したような意識障害をきたす神経系の合併症は、新型コロナ救急搬送例の30%に見られる。神経系合併症としては、味覚障害や嗅覚障害が有名だが、せん妄、めまい、脱力、尋常でない筋肉痛や筋委縮などが入院時40%、入院中80%に見られたとの報告もある。神経系にとどまらず心血管系の合併症など、人によっては、新型コロナは決して単なるかぜや肺炎ではない、全身の疾患であるとの認識がまず必要であろう。
医療崩壊は深化
新型コロナが出現して3年が経過した。現在、世界で最も新規患者が多いのが日本である。欧米を中心に世界的には比較的感染者は低く落ち着いているようではある。最も新規感染者が多い日本で、その欧米に右へならえ≠ナ感染対策は緩和されている。
もちろんコロナにはなお不明な点も多いが、できる範囲で命を助けることもできうる疾患である。コロナはもともと日本の抱える脆弱(ぜいじゃく)な医療の現状を顕在化させ、医療崩壊を深化させている。
とりわけ「自宅待機」中の死亡例について2022年1〜3月の3か月間に555名の報告があった。7〜8月の2か月間では「自宅待機」中死亡は776名と増加。少なくとも3分の1は入院希望だった。
対策としては、「ウィズコロナ」に則り「限りある医療資源」から「入院必要な患者への対応の強化」、「健康フォローアップセンター(委託事業)の拡充と自己検査キットの確保等」などを挙げているだけ。保健所の人員補充、円滑な病院運営への自治体指導などへの人的、経済的指導は強化されない。
救急搬送困難例が過去最高を記録。半数以上はコロナ以外の疾病であり、医療崩壊は深化している。
コロナは重症化しない?
ところが現政権は、医療の混乱は新型コロナを感染症法上の「2類相当」疾患として位置付けていたことが何より問題であるとする。季節性インフルエンザと同じ「5類」に格下げし、流行を可視化させず、必要な医療・介護を地方自治体や民間に丸投げし、医療費も個人に払わせるのが方針だ。病院は肥え太っているというキャンペーンも出てきた。
それに呼応して、コロナは重症化しない∞インフルエンザと同等≠ニいうキャンペーンがクローズアップされている。
新型コロナがインフル並みの疾患であれば、「5類」への変更に対する抵抗も少ないはずと政府は考えたのだろう。そこで発表されたのがインフルエンザと新型コロナとの重症化率、致死率(ともに感染した人に占める%)の比較である。
厚生労働省の専門家会議、第111回アドバイザリーボード(22年12月21日)にデータが公表された(表1)。

このデータでは、21年のデルタ株と異なり、現在の感染の中心であるオミクロン株の致死率は季節性インフルエンザと変わらないと評価され、インフル並み≠フ大きな根拠とされる。
過大に見積もった数字
重要なのでいくつか批判する。
(1)前提として、私の経験も含め冒頭で述べたようにコロナは合併症が多く比較的経過の長い疾患である。2か月ほどのデータは、この点を考慮していない。
(2)次に、表1中の季節性インフルエンザとされたデータは実際の検査陽性でなく検査キットを用いただけでインフルエンザと診断している。実際にはインフル以外で亡くなった人が多くこの死亡者とカウントされている可能性が高い。
17年の厚労省基幹統計とインフルエンザ死亡統計から検討してみる。
80歳以上の季節性インフルエンザ致死率は1・73%。一方、80歳以上の年間インフルエンザ死亡者は厚労省によれば2034人である(表2)。表1の致死率が正しければ80歳以上のインフル罹患(りかん)者は、2034÷0・0173=11万8千人となる。60―70歳代0・19%、60歳未満の0・01%でも同じ計算をすると、全人口中のインフルエンザ罹患者は計115万7千人(罹患率0・91%、人口千人あたり9人)となる。ところが17年のインフル患者数は1500万人(18年6月厚生科学審議会感染症部会)と推定され、致死率から逆算した患者数は一桁少ない。ここから、表1は致死率を少なくとも十数倍多く見積もっていることがわかる。

09年に大問題となった新型インフルエンザでも、致死率ははるかに少なく、そのことを裏付けている。
はるかに強い感染力
(3)さらに、このデータをもとにインフル並み≠ニする主張は、新型コロナとインフルエンザの感染力の違いに意図的に触れていない点が重要である。
感染力は感染した人が何人の人にうつすのかで量的に表すことができる。再生産数というが、例えば最も感染力の強い疾患の一つである麻疹は10を超える。季節性インフルエンザは1・3程度。スペイン風邪として有名な1918年流行の新型インフルでも1・8だった。オミクロン株はもともと7・3と高い再生産数(基本再生産数)だが、いろいろな方策の結果、3・4くらい(実効再生産数という)に抑えられている。
この感染力を考慮すると、80歳以上で、インフルは感染した5代目に1・3の4乗=2・9。一方、オミクロン株は3・4の4乗=134となり約40倍の差となる。オミクロンもインフルも他人に2〜3日でうつすので、5代後の約2週間後の死者数は40倍も違う計算になる。危険度が全く異なる疾患を、あたかも同じレベルの疾患に見せようというからくりである。
以上から、表1の致死率等を根拠にコロナはインフルと同じという主張は成り立たない。コロナはインフルとは桁の違う疾患である。
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2類相当を外すことで政府の公的責任を軽くし、自己責任や民間任せにしてはならない。たとえコロナにかかったとしても本来助かるべき命がある。それを救えていない医療の現実を改善する施策―保健所や介護医療施設、病院、消防への人的設備的強化など医療拡充こそが必要である。 |
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