2023年02月24日 1761号

【ウクライナ戦争停戦の鍵/米バイデン政権の泥沼戦略をとめる力/“武器ではなく和平交渉を”】

 ロシア軍のウクライナ侵攻から1年。停戦交渉が進むとウクライナへの軍事支援が上積みされ、頓挫を繰り返した。特に岸田政権はG7議長国として欧米を訪れ、軍事支援をいっそうあおった。日本の軍拡に利用できるからでもある。だが、これ以上破壊と殺人、憎悪を積みあげてはならない。市民の誰も望まない戦争を誰が続けようとしているのか。即時停戦に向けた世界の民衆の役割を確認しよう。

 「自由のために翼を」。ウクライナのゼレンスキー大統領は2月8日、英国議会で戦闘機の提供を求めた。同日パリで独、仏首脳と会談。9日にはベルギーでEU首脳会談に出席し、同様の訴えを行った。「自由なウクライナなくして自由な欧州はない」

 昨年暮れ、初の訪米後、欧米の主力戦車約300両の提供を約束させた。戦闘機は英国がウクライナ兵に飛行訓練を実施、機体提供の準備を始めている。訓練には6か月を要するという。つまり少なくとも半年以上戦闘を続けるつもりだ。独仏首脳は「ウクライナと伴走する」(マクロン大統領)「必要な限りいつまでも続ける」(ショルツ首相)とあらためて支援継続の姿勢を示した。

 ゼレンスキーの一連の訪欧では、停戦が議題になることはなかった。「自由を脅かすロシアに勝利する以外に戦争は終わらない」―はたして、そうなのか。

ロシア経済の危機

 プーチンに大ロシアを夢見る領土的野心があることは明白だが、ウクライナ侵攻の意図は、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を阻止し、軍事的脅威を取り除きたかったのだ。その背景には自国経済への危機感があった。

 プーチンがロシア国内で「支持」されるのは、ソ連崩壊後の経済的混乱を回復した「功績」にある。だが旧ソ連の中でロシア以上に急成長したのはバルト3国だった。

 リトアニアの1人当たりのGDPは95年当時はロシアとほぼ同じであったが、21年にはロシアの2・2倍にもなっている。他の2国もロシアを大きく上回っている。バルト3国は04年にNATOとEUに加盟し、「安い労働力」を強みに欧州経済圏の生産拠点になった(市川眞一「ウクライナ戦争の終わらせ方」12/7原子力産業新聞)。

 ウクライナは、プーチンがEUに対抗する経済圏として旧ソ連諸国を束ねるために創設したユーラシア経済連合(15年)に参加しなかった。すでにEUと連携、関税撤廃などを進めていたからだ。ロシアは逆にウクライナ産品に関税をかけるなどにより、「貿易戦争状態」になってしまった(21年3月朝日GLOBE+)。

 ウクライナがNATO、EUに加盟すれば、ロシアにとって軍事費の負担が増えることは確実だ。バルト3国のようにロシアを上回る経済発展を見せつけられるかもしれない。ロシアは石油・天然ガスの輸出を頼みとする「資源国家」から脱却できていない。GDPに占める輸出の割合は3割、その4割はエネルギー資源だ。プーチンにとってウクライナはロシアとともに「発展」すべき国であった。


「ロシアの自壊」狙う

 このロシア経済の弱点をつくのが米政府の「泥沼戦争」の戦略だ。バイデン政権は戦争を長期化させプーチン政権が自壊することを狙った。

 米最大のシンクタンク、ランド研究所が19年に出した報告書がある。「ロシアの最大の弱点は、経済規模が比較的小さく、エネルギー輸出に大きく依存していることである。ロシア指導部の最大の不安は、体制の安定と持続性である」とし、「ロシアに軍事的・経済的な過剰な拡張を促し、国内外での政権の威信と影響力を失わせる」戦略をまとめている(22年5月25日小西誠ブログnote)。

 ソ連(当時)はアフガニスタンへの軍事介入による支出が重荷となり、政権批判が拡大し連邦崩壊に至った。その歴史を再現させようというのだ。実際、ロシア経済は開戦後、徐々に成長率が低下し、昨年4―6月期には前年同期マイナス4%となった(今ロシアは数値の発表をやめている)。

 なぜ大した経済規模でもないロシアを弱体化させる必要があるのか。米政府にとっては、主要な「敵」は中国であることに変わりはないが、中国との市場争いにおいて、ロシア経済の弱体化は有利にはたらくと計算している。

 天然ガスの輸出量はロシアがトップだ。経済制裁により欧州市場からロシア産石油・天然ガスを締め出せれば、そのシェアを米国産に置き換えることもできる。ウクライナが負けない程度の軍事支援を続ける理由だ。

イラク戦争と重ねNO!

 ところが今年1月になってランド研究所は「長期戦の回避/ロシア・ウクライナ紛争の軌跡と米国の政策」と題する報告書を公表した。長期戦の方針転換かとも考えられるが、軍需産業の利益を優先するバイデン政権が停戦に動き出す気配はない。ただ、米国内の世論に変化が起きているのも事実だ。ウクライナ支援について過剰とする割合が、昨年3月では7%だったが、今年1月では26%になっている。バイデン政権も世論の変化を感じているはずだ。



 世界の民衆は自国政府にウクライナ戦争停戦を求め立ち上がっている。

 米国に拠点をおく平和団体「PEACE in UKRAINE(ウクライナに平和を)」は開戦1年となる2月24日に(議会閉会日で自宅にいる)上下院議員に軍事支援をやめるよう圧力をかける行動を呼びかけている。25日にはボストンなどでラリーが予定されている。

 同日、日本でも「ウクライナに平和を!」と日比谷野外音楽堂大集会がもたれ、停戦とロシア即時撤退を求める。英国ではSTWC(ストップ戦争連合)が2月25日にロンドンのトラファルガー広場をはじめ全国でデモを呼びかけている。

 世界各地で「武器はいらない、和平交渉を」の声があがる。インフレによる生活破壊に対する政府への怒りが一緒になって湧き上がるだろう。

 米国の戦争でもあるウクライナ戦争。米国のイラク侵略20周年となる3月18日には、反戦団体CODE PINKやANSWER(戦争を止め人種主義を終わらせるために今行動を)、USlaw(人種差別と戦争に反対する労働者)などが「ウクライナに平和を」とホワイトハウスにむけデモを行なう。スローガンは「終わりのない米国の戦争にノー。武器ではなく、市民生活に投資を」。

  *  *  *

 戦争はグローバル資本主義の市場支配をめぐる争いの結果だ。食糧や資源さえも投機の対象にし、自分の儲けを増やすために他人の命を顧みない最も醜い姿だ。この資本の手足を縛るには、市民もまたグローバルにつながる必要がある。各国政府を和平交渉のテーブルつかせる圧力をかけるためだ。市民の生活や命を守るための政策をとらせるためにだ。

 戦争をなくすには武器を捨てればよい。それが日本の憲法9条の戦争放棄、交戦権の否定だ。陸海空軍その他の戦力は持たないと決めことをだれもが歓迎したはずだ。ところが、岸田政権はそれを踏みにじり、軍事費倍増、敵基地攻撃能力保有に暴走し、ウクライナ戦争継続をあおる。「ウクライナに平和、即時停戦を」は、日本の軍拡阻止、生活防衛の闘いと不可分だ。
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