2023年04月07日 1767号

【岸田首相インドからウクライナへ/戦争拡大3000万ドル軍事支援/「台湾有事」をG7共同声明へ】

 岸田文雄首相が3月21日、ウクライナを訪問した。「先進7か国(G7)での議論の土台ができた」(泉健太立憲民主党党首)と野党も含め大勢が評価した。

 岸田がウクライナを訪問したのは「G7首脳で唯一未訪問」の「汚名」をそそぐためではない。5月のG7広島サミット議長国として、共同声明をまとめる役割がある岸田は、「台湾有事」を「ウクライナ支援」と同列に扱うための下準備に動いているのだ。

インドを取り込む

 ウクライナに向かう直前に訪問したインドは、G20の今年の議長国だ。そのG20、2月25日に開催された財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明を採択することができなかった。「ウクライナ侵攻」を巡る表現について日米欧と中ロの意見が折り合わず、議長総括にとどまった。

 G20には、「グローバルサウス」と呼ばれる南半球を中心とした諸国の中でも有力な南アフリカやサウジアラビア、ブラジルなどが加わっている。インドは、1月「グローバルサウスの声サミット」をオンラインで呼びかけ、125か国を集めた。インドをはじめほとんどの国がロシア経済制裁には加わっていない。

 岸田は、インドをG7サミットに招待した。グローバルサウスへの影響力を持つインドを、ロシア、中国から引き離し親米<Oループに取り込むためだ。

日本の軍拡「称賛」

 ウクライナではゼレンスキー大統領に改めて軍事支援を伝えた。ロシア侵攻1年の2月24日、中国が発した12項目和平提案に対し、習近平主席との会談に前向きな姿勢を見せていたゼレンスキーを引き戻す狙いがあった。対中国脅威論を軍事の基軸に置く日米軍事同盟にとって、中国の「平和外交」が進むようでは困るのだ。サウジアラビアとイランの国交回復(3/11)を仲介した中国の影響は大きい。続いて行われた中ロ首脳会談(3/21)。プーチン大統領は停戦への提案を前向きに検討する姿勢を示した。

 岸田は、中ロ会談に遅れることなくゼレンスキーに面談する必要があった。ゼレンスキーとの共同声明で「(両首脳は)欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障の不可分性を認識」し、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」。そして「(ゼレンスキー大統領は)防衛力の抜本的強化など日本の国家安全保障戦略の策定を称賛した」と表明。

 岸田の手みやげは、「NATO(北大西洋条約機構)信託基金への3000万ドル拠出」。「殺傷能力のない装備品」の使途限定としているが、明確な軍事支援だ。例えば、英国がウクライナに提供する戦車では劣化ウラン弾を使うという。放射性粉塵から兵士を守る防護マスクは「殺傷能力のない装備」であっても劣化ウラン弾とセットで使われることになる。殺人と破壊を任務とする軍隊が装備するものを提供することに違いはない。

 戦争当事国への首相訪問は初めてだ。軍事支援ではなく、憲法9条を持つ国として、停戦提案こそ持っていくべきではなかったのか。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS