2023年04月14日 1768号

【イラク戦争から20年の自衛隊/「集団的自衛権」と「敵国攻撃能力」/ 侵略戦争の準備整える】

 20年前の3月、米英軍を中心とする有志連合軍がイラクに侵攻した。平和を願った21世紀を20世紀同様の戦争の世紀にしてしまったのが、米国での9・11事件(2001年)に始まりアフガニスタン、イラクと続く侵略戦争だった。日本も参戦したイラク戦争を手掛かりに、軍事費を倍増させる日本の危険な変貌を検証する。

 イラク戦争とはどんな戦争だったのか。2003年3月20日未明、米軍は、大量の巡航ミサイル「トマホーク」を発射し(22日までに350発)、イラクの通信施設や防空システムを軒並み破壊した。組織だった応戦ができないイラク軍を相手に、米英軍は40日余でイラクを制圧。米大統領ジョージ・ブッシュ(当時)は5月1日「大規模な戦闘は終了した」と宣言した。

 イラク大統領サダム・フセインは、その後拘束され、クルド人虐殺を理由に処刑された。圧倒的な軍事力の差から「なぶり殺し戦争」と呼ばれた。犠牲者は11年(オバマ大統領の終結宣言)までに約50万人にのぼった(13年10月、公衆衛生専門家チームの調査)。

 武力行使(戦争)を原則禁止する国連憲章が例外的に戦争を認めるとするのは、国連安保理決議に基づく場合か自衛の場合かだ。イラク戦争は、国連安保理決議もなければイラク軍に攻撃された事実もない。明らかに国連憲章に反する侵略戦争だった。

 世界の反戦運動が「石油のために血を流すな」と叫んだように、米国の狙いは、中東産油国支配を強化するために、イラクを親米政権に変えることだった。石油埋蔵量世界第3位のイラクは、石油代金の決済をドルからユーロに切り替える決定をするなど、ドル経済圏にとっても脅威だった。

先制攻撃を正当化

 この侵略戦争を参戦国はどんな理屈で「正当化」しようとしたのか。米英政府の開戦の口実を見よう。

 第1の理由は、イラクは大量破壊兵器を隠し持ち、「無条件の査察受け入れ」を定めた国連安保理決議1441号に違反したから武力制裁を加えるというものだ。

 米英政府も、「査察妨害で武力制裁」では無理があることはわかっていた。新たな武力制裁決議を得ようとしたが、ロシア、中国だけでなくフランスにも反対された。武力行使を支持する英トニー・ブレア政権では相次いで閣僚が辞任。批判は大きかった。日本政府は国連での多数派工作に走り回ったが、非常任理事国だったドイツも反対するなど賛同は広がらなかった。

 国連決議をあきらめたブッシュは、サダム・フセインに48時間以内の国外退去に応じなければ攻撃すると通告。日本政府小泉純一郎首相(当時)はすぐさま支持を表明した。無理な理屈は承知の上で先制攻撃を行ない、戦争を始めたのだ。

 もう一つ、米英政府は、国際テロ組織アルカイダを支援するイラクを「民主的な国」に変えることも理由にあげた。

 01年、ニューヨークで約3000人が殺された9・11事件の犯人がアルカイダだとして、犯人引き渡しに応じなかったアフガニスタンを攻撃した米政府。同様にアルカイダと協力関係にあるとしてイラクを攻撃した。イラクを放置すれば再び大規模テロが起きると「恐怖」を煽った。英政府は「45分以内にイラクは生物化学兵器を使用することができる」とする報告書を作った。

 米英政府は「切迫した脅威に対処する自衛のための戦争。集団的自衛権の発動」だと言い張った。だが、9・11事件の犯人は特定されていない。サダム・フセインとアルカイダは犬猿の仲。イラクに化学兵器はなかった。すべてがウソで作り上げられた理屈だった。仮に、ウソではなかったとしても、「テロのおそれ」だけで予防的に先制攻撃を行うことが、「自衛権の発動」であるはずがない。

「復興」で参戦

 日本政府はどうしたか。戦闘が続くイラクに自衛隊を送った。当時の日本政府は、集団的自衛権の行使は憲法違反との立場であり、米軍とともに参戦することはできなかったから、「復興支援」を名目にした特別措置法をつくった。しかし、「復興」とは名ばかり。空輸したのは人道物資ではなく武装米兵だった。これは、憲法に違反する戦争行為だとの判決が確定している。姑息なごまかしは許されなかった。

 それから20年。今の日本は集団的自衛権の行使を「合法化」してしまった。安倍政権が強行した一連の戦争法制は、「武力行使三要件」を改め、日本への攻撃がない場合でも戦闘ができるとした。03年に制定した事態対処法を15年に改定。「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合」にも武力行使を可能にしたのだ。

 さらに重大なのは、なし崩し的に「予防的先制攻撃」を正当化する動きを見せていることだ。

 岸田政権の軍拡宣言3文書(安保3文書)の中心は、敵国を攻撃する能力を整備することだった。イラク戦争で大量に使われた先制攻撃のシンボル的兵器トマホークを400発購入し、洋上から発射できるようイージス艦を改造する。長射程ミサイルの開発整備を急ぐ。

 このミサイルをいつ発射するのか。政府は「相手国が攻撃に着手した時」とするが、「着手は個別具体的に判断。一概には言えない」(浜田靖一防衛相 2/3衆院予算委)とごまかしている。相手国の「脅威」が大きくなればなるほど、先制攻撃のタイミングは早まる。「恐怖」が広がれば広がるほど、そのハードルは低くなる。

「脅威」の誇大化

 イラク戦争では、サダム・フセインの独裁ぶりを強調し、大量破壊兵器の恐怖を煽り、「先制攻撃」を正当化しようとした。英国では独立調査委員会が「切迫する脅威はなかった」とブレア政権の誤りを指摘したが、日本政府は、今もって米英政府を支持したことは正当とし、検証するつもりはないと開き直っている。

 集団的自衛権行使を「合法化」した日本政府は20年前の「障害」を取り除いた。日米連合軍で戦うのに何のためらいもない。でっちあげの開戦理由であれ、その正当性は問わず、敵国をいち早く攻撃する兵器を手にする。集団的自衛権行使と敵国攻撃能力を身につけた自衛隊は、侵略戦争の入口に立っているのだ。

   *  *  *

 ウクライナ戦争で国際刑事裁判所はロシア大統領ウラジーミル・プーチンに逮捕状を出した(3/17)。戦争犯罪は国際法に照らして、厳正に裁かれなければならない。20年前、米軍も民間人を虐殺し、アブグレイブ刑務所で拷問、虐待を行った。だが、ブッシュに逮捕状が出たことはない。明らかな二重基準である。

 イラク戦争の検証は今からでも遅くはない。イラクではいまも、腐敗と暴力的政府により民衆は苦難を味わっている。その責任の一端を日本政府も負っている。「法の支配」を前面に掲げるのであれば、日米政府は国際法に照らしてまず自らの責任を明らかにすべきだ。それが次の侵略戦争の歯止めの一つとなる。



MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS