2023年04月14日 1768号
【「高市の進退」は焦点そらし/放送法 政府のインチキ解釈が問題】
|
「放送法文書、高市氏逃げ切りか/野党に手詰まり感」。時事通信は3月27日付でこのような記事を配信した。23年度予算案が成立し、追及の舞台となってきた予算委員会は当面開かれない。世間の関心も薄れ、フェイドアウトしていくとの見立てである。
しかし、高市早苗経済安全保障担当相の進退は副次的な問題にすぎない。この一件の核心は、政府が放送番組の内容に介入するために、放送法の解釈をねじ曲げたことにある。
今回、明らかになった総務省の行政文書には、礒崎陽輔首相補佐官(当時)が放送法が規定する「政治的公平」の解釈変更を総務省に働きかけ、当時総務相だった高市が従来の政府見解を事実上見直す答弁を国会で行うまでの経緯が時系列でまとめられている。
文書によると、礒崎が総務省に対し最初に「説明」を求めたのは2014年11月26日のこと。その約一週間前、安倍晋三首相(当時)が生出演したニュース番組(TBS系『NEWS23』)で醜態をさらす一件があった。街頭インタビューでアベノミクスに批判的な意見が流されたことに焦り、「意図的な編集だ」と文句を付けたのである。
その2日後、自民党は在京テレビ局に対し、選挙報道の「公平中立」を求める文書を送り付けた。主導したのは、自民党筆頭副幹事長だった萩生田光一・現政調会長である。つまり、礒崎による総務省への働きかけは、安倍一派がテレビ局に圧力を加える動きと一連のものであった。
総務省がまとめた経緯をみる限り、高市は解釈変更に乗り気ではなかったようだ。礒崎が「この件は俺と総理が二人で決める話」と述べるなど、自分の頭越しに動いているのが不愉快だったのだろう。だが、結局は安倍のゴーサインを受け、礒崎が描いた筋書きどおりに動いている。
高市にしてみれば、総務省文書の内容を事実と認めれば、自分が官邸の操り人形にすぎないことがバレてしまう。だから無理筋であっても全否定しなければならなかったというわけだ。
* * *
そもそも放送法の立法趣旨は、放送が軍部の宣伝機関と化した戦前の反省にもとづき、公権力の介入を禁止することにある。第4条が定める「政治的公平」は、放送局側が自主的に守る倫理規定であって、「違反」をくり返せば電波停止などの行政処分もありうるというのは、政府・自民党の勝手な解釈にすぎない。
諸外国には政府から独立した放送規制機関が存在する。米国は連邦通信委員会、英国は放送通信庁、フランスは視聴覚高等評議会などなど。総務省がテレビ局を監督している日本のような国は、民主主義国家の基準を満たしていない。公権力の介入を許してしまう放送法のインチキ解釈を岸田政権は撤回すべきである。
|
|