2023年04月14日 1768号
【読書室/メディアは「貧困」をどう伝えたか 現場からの証言:年越し派遣村からコロナショックまで/水島宏明著 同時代社 1800円(税込1980円)/自己責任の壁を越える共感を】
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「生理の貧困」という言葉が2021年ころメディアに広く登場し、貧困の一側面を映し出した。ところが、当時のマスメディアは、貧困とは「生理の貧困」だといわんばかりの扱いで、その他の貧困に目を向けない。そこには、新しいものに飛びつき、そのなかで目に見える問題に集中してしまう限界がある。
メディアの大多数は、貧困が構造的な問題であることを伝えない。目前の問題が少し落ち着くと、いつの間にか貧困問題自体が存在しないかのようになる。
著者は、1987年に札幌市で起こった母子餓死事件のドキュメンタリーを制作。以降もテレビの報道番組に携わる経験を持つ研究者だ。本書は、2008年「リーマンショック―年越し派遣村」の時期と「コロナショック」の時期に焦点を当てながら、第1部でテレビの貧困報道を放送データから分析する。さらに第2部は、困窮者支援活動の担い手や報道当事者にインタビューを行い、彼らの問題意識を浮かび上がらせる。
放送データ分析から著者が導くのは、自己責任論の「壁」の存在である。「健気にがんばっている」人に共感や支援が生じる一方、「がんばらない」人には攻撃的になる。なぜ、がんばれないのか≠ノまで思いが至らない。
貧困の可視化にメディアが果たした役割は大きい。貧困がさらに深刻さを増している現在、SNSも巻き込み貧困問題への「共感」をどうすれば作れるのか。著者は自問しながら共感の必要を呼びかける。
インタビューは、貧困問題に関わり報道にも登場した活動家の生の声を通じ、貧困報道の意味合いと課題を引き出している。(I) |
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