2023年04月14日 1768号

【本当のフクシマ/原発震災現場から/66/両輪で動く原発と軍事/戦慄のイノベーション・コースト構想】

 4月1日、政府の肝いりで福島県浪江町にひっそりと立ち上がった組織がある。「福島国際研究教育機構」。内堀雅雄知事が「福島の復興を実現する拠点」と持ち上げるこの団体こそ、問題だらけの「福島イノベーション・コースト構想」の司令塔となるものだ。

米ハンフォードがモデル

 政府・福島県は(1)廃炉(2)ロボット・ドローン(3)医療(4)エネルギー・環境・リサイクル(5)農林水産業(6)航空宇宙を「重点分野」として復興に取り組むという。福島第一原発に近い浜通りに研究機関・企業を立地させ「関係人口」の増加を目指す。平たく言えば避難住民など戻ってこなくていい、構想の趣旨に賛同する官公庁、研究機関・研究者、企業が関係者を引き連れ「復興」に携わってくれればいい、という思惑が透ける。

 この構想がモデルとしているのは米国ワシントン州ハンフォード。第二次大戦中に核関連施設が稼働開始し、長崎に投下されたプルトニウム型原爆の開発もここで行われた。



 近隣のリッチランド市の公立高校できのこ雲を描いた校章が使用されていることが報道され、日本でも数年前、騒ぎになった。「全米一汚染された場所」であり、今も周辺には「死の1マイル」と呼ばれる高汚染地帯がある。



 このハンフォードに、日本政府は早くから注目していた。2014年1月、赤羽一嘉・原子力災害対策本部長(当時経産副大臣、公明党)をはじめとする日本政府視察団がハンフォードに入っている。「汚染のマイナスイメージがあるのに、どうやって企業や人を呼び寄せられたのか」と「熱心に」質問する代表団に、現地で対応した非営利団体・米トライデックのゲリー・ピターセンさんは「魔法の特効薬はないかと聞かれているようだ」と危機感を抱いたという。「汚染処理は長期戦。じっくり時間をかけるべき」とピターセンさんは語る。

 大量の放射性廃棄物を高温処理し、ガラス固化体に閉じ込める処理施設は、設計に欠陥があるという元従業員からの内部告発を受け建設が中断している。トライデックが設立され半世紀が過ぎても、目立った研究成果は上がっていない。

 それどころか、ハンフォードの核施設の風下では健康被害が続出している。住民が運営企業を相手に起こした裁判では、甲状腺がん患者が因果関係を認められ勝訴した。

 ハンフォードには2億7500万g以上の危険な高濃度放射能汚染水が未処理のまま残る。「魔法の特効薬」はおろか、放射能汚染には治療薬さえ存在しない。福島はそんな「全米一汚染された場所」に続こうとしているのだ。

「復興」の裏に軍事

 そもそも福島の復興に「航空宇宙」がどのように関係するのか。イノベーション・コースト構想には当初から防衛省が加わっている。「福島ロボットテストフィールド」が整備され、ドローンの飛行実験場などが作られている。民間企業の研究に防衛省施設を使用させる計画もある。民間企業の研究が軍事に組み込まれる。

 20q離れた場所から無人車両やドローンを遠隔操作する実験も防衛省は計画している。表向きは防災を建前にしているが、明らかに軍事転用を狙ったものだ。「まぎれもなく兵器の実機試験と施行運用」(井原聡・東北大名誉教授)であり警戒感が高まっている。

 東芝、日立などのグローバル資本の多くは原発、軍事の両方を主要事業としている。原発「最大限活用」と軍事費2倍化によって、これらの企業に今後、湯水のように予算が投じられる。

 民生用に開発された技術が、開発者も意図しない形で軍事転用される例はある。科学技術の世界で「デュアルユース」と呼ばれ、古くからある問題だ。だが、初めから軍事転用を見越して技術開発するのと比べ、研究者の倫理感覚としては雲泥の差がある。

 地元では、市民が「福島イノベーション・コースト構想を監視する会」を立ち上げた。典型的なショック・ドクトリンとしての巨大利権プロジェクトから住民主体の復興に税金の使い方を変えさせる取り組みが必要だ。  

      (水樹平和)

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