2023年04月21日 1769号
【軍拡財源確保法案審議入り/国立病院など積立金も財源に/軍事最優先の国家財政へ】
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「わが国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法(特措法)案」。4月6日衆議院で審議が始まった。2023年度からの5年間で軍事費43兆円を確保するために「防衛力強化資金」を創設するもので、「軍拡財源確保」法案と呼ぶにふさわしい。「防衛力強化資金」自体は5兆円規模を想定するが、特措法は岸田政権の軍事費倍増構想に法的根拠を与えることになる。これを通せば、軍事最優先の国家財政へと組み替えが始まってしまう。
「強化資金」に使途限定
提出された特措法案は、軍事費に回すための税以外の収入をいれる財布「防衛力強化資金」をつくるもので、その財源も定めている。この法案には、反発が予想される「増税」議論を先送りしながら、総額43兆円の軍拡路線にまずは法的枠組みを持たせたい岸田政権の思惑が見てとれる。
税以外の何を財源とするのか。目を付けたのは財政投融資資金と外国為替資金の特別会計剰余金だ。
財政投融資資金は国際協力銀行などの政策金融機関や自治体などを通じて企業などに投資する資金で、運用益(剰余金)は積立金や国債整理基金特別会計へ繰り入れすることになっている(特別会計法第58条)。これを特措法で、23年度は2000億円を限度に「防衛力強化資金」への繰り入れを可能とする。
外国為替資金も剰余金は一般会計に繰り入れる(同法第8条)が、特措法はその使途を「防衛力強化資金」に限定する。23年度は1・2兆円余を移し替える。
外為資金は今や150兆円に達し、23年度運用益は2・8兆円が見込まれている。政府はこれまで為替介入に必要額だと流用を渋ってきた。だが今回、軍事費目的であっさりと取り崩す。
医療つぶして兵器買い
今回の特措法案で見過ごせないのが、独立行政法人国立病院機構(NHO)の積立金から422億円、地域医療機能推進機構(JCHO〈ジェイコー〉)からは324億円を年度末までに「国庫に納付しなければならない」と命じている点だ。
両法人は収益の積立金をベースに、施設や業務の改善など中期計画に基づく運営をしている。現在23年度を最終年度とする中期計画が進行中であり、残余金が出たとしても24年度の返納となる。それを特措法は、1年繰り上げて、しかも積立金のほぼ半分にあたる額を返納せよというのだ。
JCHOの厚生年金病院は設立時に年金財源を使用しているため、残余金は「年金特別会計に納付しなければならない」(JCHO法第16条)と定められている。特措法はこれを書きかえてしまう。宮本徹議員(共産党)が衆院予算委(4/1)で「年金財源を軍拡に流用するもの」と追及したのは当然だ。
両法人とも次期中期計画で、病院施設の老朽化対策を行う必要があった。耐用年数(39年)を超える病院が、NHOで140病院中77病院、JCHOは57病院中15病院に及ぶ。積立金を全額充てても足りない。さらに看護師の賃金は人事院勧告より低く抑えられたままだ。岸田政権の「医療の充実=人命よりも軍拡」政策を端的に示している。
43兆円へあの手この手
特別会計からの繰り入れ先の変更は、立法措置が必要だったため、特措法案が提出された。あわせて、国有財産の売却益などは23年度に限らず、「防衛力強化資金」に使途を限った。生活向上のために使われるべき剰余金などをかき集めて軍事費に回すことを定めた特措法案は、国家財政の構造を軍事最優先につくり変えていく意図の表れなのだ。
忘れてならないのは、この「防衛力強化資金」の創設は今後の軍拡財源確保策の第1段に過ぎないことだ。
政府が準備している2段、3段は、軍拡財源の全体像を見れば明らかになる。
5年で総額43兆円を確保するために政府は、まず22年度の軍事費水準を一切下げないことを前提にしている。これで25・9兆円。その上に17兆円を上積みする。そのうち「防衛力強化資金」は、4・6〜5兆円規模の想定だが、特措法案により23年度で繰り入れられる額は1・5兆円弱。まだ3兆円以上を「税外収入」からひねりださねばならない。
他には、毎年平均0・7兆円を見込んでいる「決算剰余金」。財政法で国債償還に充てることが定められている。ともに流用するには特別法が必要となる。「歳出改革」で計3兆円、5年後の27年度には1兆円を生み出すとしているが、軍拡のために一体どこを削るというのか。
本命は軍事増税
こうして捻出してもなお5・5兆円強足りない。岸田政権の本命は、やはり軍事増税なのだ。既に昨年末の与党税制調査会は増税方針をまとめた。法人税で4〜4・5%税率を引きあげ、7000〜8000億円をつくる。たばこ税では1本3円相当の引き上げで2000億円、所得税で1%税率引き上げ(代わりに復興特別所得税率を1%引き下げ、課税期間を延長)、結局、復興資金から2000億円を流用する。これで毎年1・2兆円を確保する。
しかし、こうした試算も税外収入が見込み通りに確保できることが前提だ。増税幅がさらに引き上げられる恐れは充分ある。自民党内では、増税が与党のダメージとなることを恐れ、国債の償還期間を延長する方法で財源を生み出す案も議論されている。
どちらにせよ、国の予算は税か借金(国債)でまかなうしかない。23年度予算では、税収は一般会計の6割。どこに財源を求めようが、最終的には納税者が負担することにかわりない。
あらためて43兆円の軍事費で何をするのか、問わなければならない。敵国攻撃兵器を爆買いし生産させていいのか。そもそも、軍事費の財源を探すのではなく、軍事費削減の道を議論すべきだ。平和外交に徹し、軍縮することこそ平和憲法が政府に命じていることだ。
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「軍拡財源確保」の特措法案に続いて、軍需産業の生産基盤を強化する法案が4月7日、審議入りした。撤退が相次ぐ軍需産業を支えるためだ。43兆円の軍事費は、長射程ミサイルや弾薬・武器の生産ラインを動かすためにも使われる。自前で戦える戦争国家への道を進ませてはならない。
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