2023年04月28日 1770号

【核攻撃に備え基地「強靭化」/継戦能力アップへ大規模弾薬庫も増設/市民が死んでも戦い続けるのか】

 5年で43兆円の軍事費がもたらすものは、敵国攻撃兵器の爆買いだけではない。防衛省は、長射程ミサイルなどを大量に備蓄する大規模弾薬庫の建設とともにあらゆる攻撃に耐えうるよう基地の強靭化を行うという。対象施設は日本列島全域に及び、軍事費43兆円の1割となる4兆円をかける。たとえ住民が暮らす周辺地域が吹き飛んでも、軍司令部は生き残り備蓄した弾薬を撃ち続けるつもりだ。「再び戦場にするな」と叫ぶ沖縄県民に全国から声を合わせる時だ。

5年で4兆円の大事業

 2022年12月23日、防衛省はゼネコン関係者を集めて、「自衛隊施設の強靭化に向けて」と題する説明会を開いた。この場で防衛省整備計画局は、「施設の強靭化の概要」と「施設最適化調査の概要」の2点について防衛省の基本的な考え方を示した資料を配布し、「調査業務を行うためのアイデア、発注方式への意見」を求めた。

 防衛省の注文は、全国約300地区2万3000棟の建物や施設を対象に、大規模災害にも武力攻撃にも耐えうるように「強靭化」するので、軍の機能を継続しながら増改築するための「最適な」工事計画をつくるために協力せよというものだった。

 予算規模は5年で4兆円。ゼネコンにとっては極めて「おいしい」ビッグプロジェクトの提案といえる。各社手分けして取り組むこと(談合)になる話だ。この意見交換会は23年の2月2日にも行われて、「調整」がされている。

 問題とすべきは、防衛省がどんな「強靭化」を考えているかだ。一つには、「大規模自然災害(いつくるかわからない危機)」により軍の機能を低下させないこと。たとえば、旧耐震基準による築40年以上の建物約1万棟は、新耐震基準に適合するよう建替える方針だ。そこですごす隊員の安全のためには地震で倒壊する建物は補強すべきなのだが、それだけでは済まない。この機に新たな機能を持たせ、攻撃力向上に役立つようにするのは間違いない。

 もう一つの強靭化基準がある。「武力攻撃・テロ行為等(意図ある攻撃)」にあっても機能を失わないことだ。

CBRNeを想定

 防衛省は「CBRNe(シーバーン)に対する防護性能の付与」を掲げる。Cは化学兵器、Bは生物兵器、R放射性物資、N核兵器、eは爆発物を意味する。HEMP(高高度核爆発電磁パルス―数十`b上空で核爆発した際に発生する電磁波で通信や電子機器に障害が起きる)攻撃までも想定した対策を考えている。これらの攻撃を受けても施設が破壊されたり、機能を失わないために、主要司令部の地下化などを含めた建物のイメージを示している。

 単に建物の建替えですむ話ではない。基地全体を新たに造りかえようという大胆な計画なのだ。

 だが冷静に考えてみてほしい。核攻撃に耐えるようすべての基地を造りかえる意味を。本当に核攻撃を想定しているのかと問わずにはいられない。

 たとえば東京。都内では15の自衛隊基地が「強靭化」の対象施設となっている。防衛省や自衛隊幕僚監部などが集積する新宿区市ケ谷地区もその一つだ。ここが核攻撃を受けた場合、一体どんな状況になってしまうのか。

 広島に投下された原爆は半径約2`b以内の建物を消失させた。市ケ谷基地に同程度の原爆が落ちれば、国会議事堂を含む範囲が消えてなくなる。それでもなお、市ケ谷基地の司令部は生き残る防御をしようと言うのだ。それが一体何の役に立つのか。使われる税金は誰のためなのか。こんな工事を10年かけて全国300地区で実施するという。正気の沙汰とは思えない。




弾薬庫130棟新設

 軍事費の使い方で、もう一つ見過ごせないのが「弾薬庫の大規模化」だ。弾薬の備蓄はその7割が北海道に集中している。防衛省はこれを沖縄・南西諸島に分散させる方針を示していた。「対ソ冷戦」態勢から「台湾有事」へと、弾薬もまた戦場のより近くに置こうというのである。

 防衛省は23年からの5年間で、5兆円をつぎ込み弾薬や誘導弾を調達する。従来計画の5倍の予算規模だ。これに伴い、弾薬庫を全国で130棟新設する。既存の1400棟も拡張をはかる。貯蔵量はさらに増え、南西諸島だけでなく、全国に分散配置するのだという。

 23年度の「大型火薬庫の整備計画」(58億円)では、陸上自衛隊大分分屯地で45億円をかけて新設工事を行う。陸自は他に京都府にある祝園(ほうぞの)弾薬庫の大規模化(調査費4億円)を計画する。この弾薬庫は関西文化学術研究都市として開発された住宅団地群に近接する位置にある。

 海上自衛隊では青森県の大湊地方総監部で新設工事に着手(7億円)、広島県の呉地方総監部でも計画(調査費2億円)がある。



 これは何を意味するのか。備蓄弾薬の量が増すだけ、戦闘が長引くということだ。軍事3文書(安保3文書)の力点は「敵基地攻撃能力の確保」と「継戦能力の確保」にあった。継戦能力の具体的な中身は弾薬の備蓄量と基地の強靭さだ。

 敵国を攻撃すれば、当然反撃を受ける。基地だけでなく司令部中枢をも攻撃することを公言する政府・防衛省は当然敵国もまた日本の中枢を攻撃してくることを想定することになる。

 敵国攻撃能力を持つとは、日本全土が攻撃の対象となると覚悟≠キることを意味する。

   *  *  *

 78年前、4人に1人が犠牲となった地上戦を経験した沖縄の人びとは、「継戦能力」とは市民を犠牲にすることだと分かっている。かつて沖縄に配置された帝国陸軍第32軍は、地下壕に身を潜めた。東京にあった大本営は長野県松代(まつしろ)に地下司令部を準備し、本土決戦に備えた。政府・防衛省は、これから、主要な司令部を地下化するという。それは、いったん戦争を始めれば、敵国をせん滅するか、自国が全滅するまで戦闘をやめない決意をすることなのだ。

 ミサイル要塞化が急速に進む南西諸島、弾薬庫の増強が浮上している沖縄島では、辺野古新基地建設阻止の闘いとともに「沖縄を再び戦場にするな」と市民の闘いが粘り強く続いている。この思いを共有して、「戦争をする国」づくりに対する闘いを全国に拡げなければならない。「戦争の準備をやめろ」と抗議の声をあげなければならない。
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