2023年04月28日 1770号

【みるよむ(652)2023年4月8日配信 イラク平和テレビ局in Japan 油田地帯で急増するがん患者 ―これは人災だ―】

 世界的な石油生産国イラクでは、石油産出と共に大量のガスが発生している。そのガスを燃やす時に出る有毒物質で周辺住民に健康被害が広がっている。2023年3月、サナテレビはこの問題を取り上げた。

 映像は、有毒物質をまき散らす油田のガス燃焼や、大気汚染のために健康を害して病院に入っている多数の市民の姿を映し出す。被害の実態が伝わってくる。

 石油の主要生産地である南部バスラ近辺には大きな油田が5か所あり、住民に深刻な健康被害が出ている。特にがんの発生率が極めて高く、「がんはインフルエンザのように広まってしまった」と言われるほどだ。

 レポーターは「油田の近くに住む市民はがんが生活の一部となってしまったのです。家族の誰かががんに苦しんでいない家はほとんどありません」と伝え、「人権の尊重よりも利益が優先され、いけにえ≠ェ提供されている」と憤る。

 国連の人権と教育に関する特別報告者の言葉も紹介される。報告者は「油田の近くの住民は、政府と企業の癒着の犠牲者だが、ほとんどの場合、政治的な力を持っていない」とイラクの社会状況を批判する。

専門医も抗がん剤もない

 こんな状態になっているのに、病院にはがん治療の専門医がいない。抗がん剤もない。行政も石油企業もガスの安全な処理に取り組んでいない。それどころか、政府はこの問題を明らかにしようとした政府職員に機密保持命令を出し、発表を禁じた。環境汚染を調査する専門家の立ち入りさえ拒否している。

 南部のがん患者急増は石油企業と政府が経済的な損得しか考えず対策を怠っていることによる人災だ、と番組は告発している。

 サナテレビは、イラク政府に対して有毒ガスの対策や医療の充実を要求し、市民の命と健康を守ろうと呼びかけている。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)
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