2023年04月28日 1770号
【民意を切り捨てた議員定数削減/維新「身を切る改革」の正体/ブレーキのない翼賛議会に】
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「大阪での『身を切る改革』が関西を中心に全国的に広がりつつある」。日本維新の会の馬場伸幸代表は、統一地方選前半戦の勝因をこう分析した。もっとも、「身を切る改革」の実態が知られているとは言い難い。維新流の議員定数削減は何をもたらしたのか。
約10年で3割減
維新は大阪府知事、大阪市長のダブル選で圧勝。府議選や市議選でも獲得議席を大きく伸ばした。特に府議選では56人を擁立し55人が当選。大阪府議会の定数が79人だから占有率はついに約70%に達した。
さて、府議会の定数が79と聞いて「少ない」と感じなかっただろうか。大阪府(人口約884万人)と人口規模が近い神奈川県議会の定数が105、愛知県議会が定数102だから、かなり少ない。人口あたりの議員数は都道府県議会では全国最少だ。
議員定数の削減は、府議会を牛耳る大阪維新の会が「身を切る改革」の一丁目一番地として主導してきたものである。109だった府議会の定数を2011年に88に、2022年に79に減らした。維新は「改革の実績」と宣伝する。
しかし、議員の数は減らせばいいものではない。住民の多様な意見を議会に反映させるには一定の人数が必要だ。いわば民主主義の実現に必要なコストなのだが、維新は容赦なく切り捨ててきた。その結果、明らかな弊害が生じている。
まずは、選挙区内で1人だけが当選する「1人区」の増加だ。今回の府議選では計53選挙区のうち36選挙区が「1人区」で、約68%を占める。毎日新聞の調べによると全国の都道府県議会の平均は37%だから、大阪府は倍近い水準だ。
「1人区」では、最高得票者(当選者)以外の立候補者への投票はすべて死票になってしまう。少数意見は切り捨てられるということだ。逆に、比較多数派は「1人区」が多いほど有利になる。実際、今回の府議選で維新は36の「1人区」のうち35選挙区で当選を果たした。「1人区」の増加が議席数の大幅上積みに直結したといってよい。
無投票当選の増加
今回の府議選では全選挙区の2割にあたる11選挙区で定数を上回る届け出がなく、計15人の無投票当選が決まった。このうち7選挙区が「1人区」で、維新以外は候補者を立てることすらできなかった。
投票がなくなれば、有権者は自らの意思表示によって代表を選ぶことができない。選挙での論戦を通して、政治課題について関心を高める機会を失うことにもなる。民主主義の空洞化が加速することは明らかだ。実際、府議選の投票率は前回より2・06ポイント低下した(47・75%)。
結局高くつく
日本の地方自治体は二元代表制をとっているが、議員が首長のイエスマンばかりになれば、その意味が失われる。議会が行政のチェック機能を果たせなくなるということだ。大阪維新の会代表である吉村洋文知事の翼賛機関と化した今の府議会がそうである。
一昨年6月、府議会・健康福祉委員会の閉会中審査が野党会派の知事質問を前に打ち切られる一幕があった。医療崩壊を引き起こした府のコロナ対策の検証が必要だったが、吉村知事に対する追及を維新は数の力で阻止したというわけだ。
昨年7月には、カジノを中核とするIR(統合型リゾート)誘致の賛否を問う住民投票条例案が府議会に提出された。しかし、府民の約21万筆もの署名に支えられ提出にこぎつけた条例案は、提案されたその日に否決された。「住民投票に意義を見いだしがたい」という吉村知事の意向に沿った門前払いである。
この臨時府議会において、議員数4人以下の少数会派は条例案について意見を述べる機会を与えられなかった。議員5人以上の「交渉会派」でなければ条例案への代表質問も討論もできないという府議会独自のルールのためだ(維新が台頭する前から存在)。
これが維新が誇る「日本一スリムな議会」の実態である。維新に言わせれば、少数意見をいちいち相手にするのは、時間やコストの無駄なのであろう。
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今回の定数9減により、議員報酬などは4年間で約7億円減るという。「身を切る改革」による節税効果はその程度でしかない。
一方、維新府政・市政のずさんな計画により、大阪万博に府と市が出展するパビリオンの建設工事費は当初の試算から25億円も増えた。IR予定地である夢洲の土壌改良費にしても、本来は事業者が負担すべきものだが、血税約790億円が注ぎ込まれる。
単純にカネの面だけをみても、「身を切る改革」は議会のチェック機能を破壊し、結局高くつく。これが大阪の教訓だ。 (M)
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