2023年05月05日 1771号
【人権侵害・民主主義否定のきわみ/入管法改悪案は廃案以外にない】
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岸田政権は2年前に廃案となった「出入国管理及び難民認定法(入管法)」改定案を再び国会に出した。4月13日衆院法務委員会に付託された法案は、強制送還を容易にするなど人権無視の骨格はそのまま。出入国在留管理庁(入管庁)による恣意的拘束をはじめ、国連の人権機関から出された数々の是正勧告に背を向けた改悪法案だ。再び廃案に追い込み、国際人権法に適合するよう根本的な改正を行わせなければならない。
強制送還の恐れ増大
齋藤健法務大臣は「保護すべき者を確実に保護しつつ、ルール違反者には厳正に対処できる制度とした」と改定の趣旨を説明した(3/7記者会見)。
「保護すべき者を保護する」制度とは何か。「補完的保護対象者(準難民)」の認定制度を設け、保護対象範囲を拡げるという。廃案になった改定案に付け加えた。難民の条件が(1)人種(2)宗教(3)国籍(4)特定の社会集団の構成員(5)政治的意見を理由として迫害を受ける恐れがあること(難民条約)としているため、「紛争地からの避難民」はこの定義から漏れる。約2300人のウクライナ避難民は現在、法務大臣の裁量で受け入れている。これを、準難民として、難民同等の定住資格を与えようとするものだ。
では、これまでも「保護すべきであった難民」の認定は改善されるのか。2023年度は3772人の申請に対し202人の認定にとどまっている。欧米諸国に比べ極端に少ない難民認定率への反省はないどころか、むしろ齋藤大臣が言う「ルール違反者は厳正に対処できる制度」のターゲットにされ、強制送還の恐れが増しているのだ。難民認定手続き中は一律送還停止される現行法を、3回目以降の難民認定申請者は強制退去を可能とするよう改定しようとしているからだ。
新設される「監理措置」制度も問題だ。退去事由に該当する外国人はすべて収容施設に拘束し、送還手続きを進める「全件収容原則」に対し多くの批判がある。「全件収容」を改め「監理人」に監視させるというものだが、監理人は入管庁に報告義務があり、怠れば過料10万円以下の罰則が科せられる。入管庁は3か月毎に「収容」か「監理」か判断するという。これでは監理人が対象者の人権を守れないばかりか、結局は入管庁の胸先三寸である構造はまったく変わらない。

難民国際法を無視
なぜ日本の入管行政はこれほどひどいのか。国際人権法学者藤田早苗は著書の中で、50年前の入管当局法務官僚の言葉「(外国人は)煮て食おうと焼いて食おうと自由だ」を引き「そのような意識は今も変わっていない」と指摘している(『武器としての国際人権』集英社新書)。入管庁の基本姿勢は「あやしい外国人は一人も入国させない」ことにある。「ルール違反者を強制退去させる」ことで秩序を維持することを基本に据えている(入管庁ウェブサイト「入管法改正案について」)。
一方、帰国すると拷問など人権侵害を受けるおそれのある人は、いかなる場合であっても強制送還してはならない「ノン・ルフールマン原則」がある。国際人権法に定めがあるもので、たとえ難民条約などを批准していなくても守らなければならない国際慣習法であり、難民認定の原則だ。
人権よりも「治安」を優先する日本の入管行政(収容・送還・難民認定)は国連の拷問禁止委員会、人種差別撤廃委員会や移住者の人権に関する特別報告者、恣意的拘禁作業部会などから、繰り返し改善勧告を受けたにもかかわらず、一向に改まらない。19年、子どもの権利委員会は「仮放免」の子どもが健康保険に入れず医療サービスを受けられないことを問題視した。22年秋には、自由権規約委員会が「仮放免」の外国人に労働も生活保護受給も禁じていることを指摘した。「karihoumen」は英訳できず、日本語のまま非難されるべき国際語になった。
今回の改定案もまた人権より「治安」を優先したものだ。収容施設での虐待死や自死にいたった事件の責任を明らかにするどころか、組織として隠蔽する。煮て食おうが、焼いて食おうが≠フ構造が温存されているのである。
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岸田政権が中国やロシアを非難するとき口にするのが、「法の支配」「民主主義」という言葉だ。専制政治、独裁的体制を揶揄(やゆ)するつもりだろうが、日本政府に対しても問わなければならない。国際人権法を尊重しているのか。民主主義の根本であるすべての人の人権を守っているのか。たとえ一人の人権であっても侵害を許せば、万人の権利が脅かされるのだ。 |
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