2023年05月05日 1771号

【沖縄 宮古島で陸自ヘリ墜落/南西諸島演習激化による事件/これは最初の犠牲者だ】

 4月6日午後3時56分頃、陸上自衛隊第8師団第8飛行隊(熊本・高遊原〈たかゆうばる〉分屯地)所属のUH60JA多用途ヘリコプター1機が、沖縄・宮古島周辺で飛行中、レーダーから機影が消え、行方不明になった。防衛省は陸海空自衛隊をはじめ第11管区海上保安本部など約500名で捜索を続け13日夜、不明となった海域から約4㌔北側の海底約100㍍の深さに沈んでいることが判明。機体と6名の搭乗員が発見され、19日現在5名の死亡が確認されたが、残る隊員とフライトレコーダーは見つからず事故原因などはわからないままだ。




戦時体制強化の姿

 この事故によって、「台湾有事」をあおる日米両政府による南西諸島への戦時体制強化の姿とさまざまな問題があぶり出された。

 第一に、3月末に50時間飛行した後に行う「特別点検」を受けたばかりの機体で、天気も良好にもかかわらず、ヘリがこれほど簡単に墜落するのかという不信だ。これが民間地だったらと市民の不安はぬぐえない。

 第二に、「台湾有事」の際には、沖縄島の陸自第15旅団ではなく、九州南部(熊本・宮崎・鹿児島)を管轄する第8師団5000名が、宮古八重山諸島に展開することがわかった。

 第三に、事故機には、坂本雄一師団長ら第8師団幹部5名と第8飛行隊のパイロット・整備士4名、宮古陸自駐屯地トップの警備隊長の計10名が搭乗しており、中枢幹部が一斉に不在となってしまうという、危険回避(リスクヘッジ)機能がまともにはたらいていなかったことだ。こうした事態は民間企業でもありえない〝失態〟。防衛省幹部も「前代未聞」(4/13共同通信)と衝撃を隠せない。

 第四に、第8師団140名が捜索のため熊本から宮古島入りしたが、宿営のため県立宮古青少年の家を4月29日まで急遽使用することになった。県も〝事態が事態だ〟と宿泊規則を反故(ほご)にして受け入れを認可。青少年のための宿泊施設が自衛隊の宿営地に変わった瞬間だった。「有事」とされれば、条例や規則はいとも簡単に破棄される。

 さらに浮遊した部品を回収しながら不明機がなかなか見つからなかったことに、地元では、2019年の陸自千代田ミサイル駐屯地を建設する際に、古くからあり聖地とされる御嶽(ウタキ)の半分を壊した経過から、〝今回の事故はその祟(たた)りかも知れない〟との噂が広まった。

 ヘリ機が通過した宮古島北部の「神の島」と言われる大神島では、一周道路建設時に建設機械トラブルや作業員の病気が多発し、〝神が開発を認めなかった〟との声に建設断念に追い込まれたこともある。

 また、機体が見つからなかった理由のひとつにフライトレコーダー問題がある。空自や海自のヘリは、事故の際にそれを海上浮揚させるため機体外部に固定され着水時に放たれるが、陸自ヘリは地上飛行仕様でフライトレコーダーとビーコン(位置情報を発信)が機内に装備されているため発見が遅れた。そもそも陸自ヘリは海上飛行に適していなかったのだ。

必然的な事件

 防衛省が情報公開しないためわからないことが多い。だが、坂本師団長らは「台湾有事」の際の宮古島の地形と海岸線を目視確認するために危険高度とされる150㍍よりさらに低空を飛行した可能性が高い。池間島北側から陸自ヘリを見た元自衛官は「海面付近を飛行する。すごい演習をしているな」と語っている。

 事故ではない。〝事件〟だ。沖縄など南西諸島を軍事要塞化し、軍事演習強化の中で必然的に生まれた事件だ。沖縄戦の教訓は「軍隊は住民を守らない」だが、そればかりか「軍隊は兵士さえも守れない」。まさに今回の事件は、南西諸島軍事化によってもたらされた最初の10名の犠牲者だ。これ以上の犠牲者を出さないために「台湾有事」への軍事要塞化は中止しかない。

(4月21日、西岡信之〈沖縄国際大学・元平和学担当非常勤講師〉)

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