2023年05月05日 1771号

【未来への責任(373) 3項ある韓国政府の「解決策」】

 4月14日、大法院判決を受けた韓国の強制動員被害者原告のうち10名が設立された「財団」から賠償金相当額を受けとった。過半数を超える原告が韓国政府の「解決策」を受け入れたことになる。尹錫悦(ユンソンニョル)政権はこれに安堵したかも知れない。しかし日本政府は「誠意ある呼応」を全くしていない。

 それどころか「外交青書」(4/11)では、「3月6日、韓国政府は旧朝鮮半島出身労働者問題に関する自らの立場を発表した。同日、日本政府は、2018年の大法院判決により非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものとしてこれを評価するとの立場を表明した」と書いただけだった。林外相は「『日韓共同宣言』を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認」すると述べたが、それすら「青書」ではカットされていた。岸田首相の頭はこの問題が既に「終わったこと」になっているのかも知れない。

 しかし、そう簡単に「終わった」となるのだろうか。「解決策」は3項から成っている。1項目の「第三者弁済」だけではない。2項目は「後続措置として、被害者の苦痛を記憶し、継承していくために追慕、教育・調査・研究事業等を推進する」とある。3項目には「財源は民間の自発的寄与などを通じて用意する」とある。日本政府、被告企業が1項目だけを都合よく“食い逃げ”するのは許されない。「解決策」を「評価する」というのであれば、2項、3項も自らに問われており、やるべきことを実行しなければならない。

 2項目について、韓国政府が具体化していくためには、日本政府、関係企業が「労務(国民)動員計画」の実施を軸とする戦時労務動員に関わる資料を提供することなどが不可欠だ。強制動員の実相、真実を究明することなく被害者の苦痛を記憶、継承することも、追慕することもできないからである。

 3項目について林外相は、記者会見(3/6)で「有志企業からの財団への寄付は容認するか」と問われ、「自発的な寄付活動等について、特段の立場をとることありません」と答えている。少なくとも否定はしていない。であれば、あとは企業の判断である。裁判で強制動員・強制労働の事実、不法行為責任を認定された企業が謝罪もせず、1円も出さず知らぬ顔を決め込むことはできない。そして、「求償権」の時効は10年だ。

 いずれにせよ日本政府、関係企業は強制動員を行ったことの歴史的責任を免れることはできない。大法院判決から逃れることもできない。加害の事実を認め、被害者に真摯に謝罪し、その償いの証しとして金銭を支払い、過ちを繰り返さぬための措置を講じる。これ以外に問題解決の道はない。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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