2023年05月05日 1771号

【法案提出は見送られたが…/政府が狙う学術会議支配/独立性奪い、軍事研究に動員】

 政府は日本学術会議法改悪案の今国会提出を見送った。批判が高まる中、無理押しは得策ではないと判断したのだろう。だが、連中は諦めてはいない。学術会議から独立性を奪うことは、大軍拡路線を支える軍事研究に科学者を動員するための手段だからである。

批判を受け見送り

 「変に進めたら世論の余計な反発も招くから。もうちょっと時間をかけて、大きな議論をした方がいい」。日本学術会議会員の選び方などを見直す法案の今国会提出を見送った理由を、自民党幹部はこのように説明する(4/20朝日)。

 4月17〜18日に行われた学術会議総会では、政府が示した案に対し「学術会議の独立性を損ねる」などの反対意見が続出。法改正を思いとどまり、開かれた協議の場を求める対政府勧告を全会一致で決めていた。また、日本のノーベル賞受賞者8人が政府に再考を求める声明を発表し、それに海外の自然科学系ノーベル賞受賞者61人が賛同するなど、批判は国際的な広がりをみせていた。

 こうした状況で法案の閣議決定を強行すれば、「科学者の意見を無視する岸田内閣」の姿が際立ってしまう。岸田文雄首相にしてみれば、今後の衆院解散を見据え、支持率再下落を招きかねない強行突破を今は避けたのだろう。

 とはいえ学術会議を政府の支配下に置く策動は続いている。法案を担当する後藤茂之・経済再生相は「ご理解が得られないのであれば、民間法人化する案も検討することになる」と述べた(4/20毎日)。言うことを聞かない組織にはカネを出さないとの脅しだ。

会員人事に介入

 政府・自民党はなぜ学術会議を目の敵にするのか。攻撃が表面化したのは2020年9月、就任直後の菅義偉首相が学術会議から推薦された新会員候補6人の任命を拒否したことだった。設置法(学術会議法)が定めた会員選考における自主性・独立性を一方的に踏みにじったのである。

 ところが政府・自民党は「仲間内で人事を決めていることこそ不公正」と話をすり替え、学術会議法の見直しに着手した。政府が示した改悪法案の柱は、外部の有識者で構成される諮問委員会を会員選考に関与させることにある。学術会議はその意見を尊重することを義務づけられる。

 しかも、諮問委員会会員の要件に「科学、行政、産業や国民生活の諸課題に取り組むための経験と識見」を掲げ、推薦を求める先として「経済団体」を明記している。つまり、政府や経済界の意向に忠実な人物を学術会議に送り込むための仕掛けなのである。

大軍拡路線の一環

 後藤担当相は諮問委員会の新設の理由を「運営や会員選考の透明性を図るため」と説明するが、これは方便にすぎない。政府・自民党の本音は産経新聞の主張(4/20)が代弁している。

 いわく「学術会議は、昭和25年と42年に『戦争を目的とする科学の研究は絶対に行わない』とする軍事忌避の声明をまとめ、平成29年に声明継承を宣言した。(中略)今も一連の声明は撤回せず、軍事忌避の姿勢を取ってきた反省をしていない」「学術会議は税金で運営され、会員は特別職国家公務員だ。防衛のための研究を当然視しないような反国民的な体質は早急に改めるべきだ。それには、選考に第三者の目を通じて世間の常識を入れていくことが欠かせない」

 要するに、岸田政権が進める大軍拡路線と学術会議法の改悪は一体のものだということだ。学術会議から独立性を奪い、政府や経済界の意向に沿った軍事研究に科学者たちを動員しようとしているのである。

 任命拒否問題で菅政権が批判にさらされていた2020年11月には、自民党の山谷えり子参院議員が次のような国会質問をしている。「学術会議は軍事科学研究を忌避する声明を出した。おかしな姿勢だ。現代は民生技術と安保技術の境界がなくなってきている。インターネット、カーナビゲーション、GPS。みな、軍事・安全保障研究から始まっている。学術会議が学問の自由をむしろ阻んでいるのではないか」

 まるで学術会議が日本の科学技術の発展を阻害してきたかのような物言いである。また、「国がカネを出しているのだから国に従うのは当然」といった俗論を自民党議員や右派文化人はまき散らしてきた。

 冗談ではない。学術会議の独立性が法で定められているのは、戦争遂行に科学者が総動員された戦前の反省を踏まえてのことだ。それに、時の政権の顔色を常にうかがうような御用団体では、科学的視点からの政策提言など望めない。

 大軍拡路線を進めるために学術会議の独立性を奪う政府の企てを絶対に許してはならない。   (M)

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