2023年05月05日 1771号

【読書室/医療DXが社会保障を変える マイナンバー制度を基盤とする情報連携と人権/稲葉一将、松山洋ほか著 自治体研究社 1100円(税込1210円)/医療を抑制し儲けの種≠ノ】

 医療DX(デジタルトランスフォーメーション)は、健康「自己管理化」を強め医療費を削減していく社会保障費抑制策の一環である。医療のICT(情報通信技術)化とデジタル化を通じて医療提供体制を縮小していく狙いを持っている。昨年5月発表の「医療DX令和ビジョン2030」に「国民自身が自らの健康づくりや健康管理を主体的に関与できるような環境を整備する」とあるように、自己責任≠ェさらに求められることにつながる。

 同時に医療DXは、政府と資本が新規産業の育成や市場開拓による「成長戦略」を進めるためのものだ。それは、個人の医療・健康情報を儲けの種≠ノすることを意味する。昨年6月、製薬、生命保険や通信・ITなど大手企業15社が事業協会を2023年度内にも設立することを発表した。

 これら事業者がケアサービスを提供するとき、行政機関等が保有する利用者らの個人情報をマイナポータル(政府が運営するオンラインの情報提供等開示システム)から取得できる。現行法では、この情報取得のたびに本人同意を必要とするが、経団連は毎回の同意なしで情報を得ることができるよう求めている。

 昨年10月、当時のデジタル大臣が健康保険証廃止を打ち出し大きな批判を受けた。だが、今国会に保険証廃止、マイナンバーカードとの一体化法案が提出され、強行が狙われている。これはマイナンバーカード義務化への道を開き、税務、年金、健康保険関連から国家資格に至る情報を一元管理・提供するためだ。ここに個人情報保護の観点はない。人間が自分の意思で自分らしく生きることを抑圧させてはならない。(I)
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