2023年05月12・19日 1772号
【スーダンからの「邦人避難」輸送/戦闘地へ軍隊送る口実に】
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戦闘が続くアフリカ北東部スーダンから日本大使館、NGOなどの関係者約60人が無事避難した。不幸中の幸いといえる。マスコミは「迅速・柔軟な自衛隊機の派遣が奏功した」(4/26読売)と政府の対応を評価する。だが軍隊による「民間人輸送」は攻撃を受ける危険を高めるものでしかない。自衛隊の「邦人救出」作戦は海外派兵への地ならしだ。警戒を怠ってはならない。
危険性高まる軍輸送
スーダンでは国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が4月15日以来、交戦状態にあった。そんな中で林芳正外相は4月19日、浜田靖一防衛相に自衛隊派遣を要請した。
浜田は自衛隊輸送機に高機動車を載せ、アフリカ東部ジブチの自衛隊基地に派遣した。スーダンからの「救出」作戦には空路と陸路を想定し、航空と陸上の自衛隊員370人の任務部隊を編制、「海賊対処」任務にあたるジブチの部隊約400人と合流させた。
交戦中の両軍から停戦合意が発表されても散発的に戦闘は続いた。両軍にとって、味方ではない自衛隊は「脅威」になりうる存在だ。避難する民間人が自衛隊の軍用機や軍用車両に乗ることは、戦闘員にみなされるということだ。危険性が高まりこそすれ、安全が保証されることは決してない。戦闘区域からの脱出は困難を極めるが、民間車両や民間機による方がより安全であることは間違いない。
自衛隊は「邦人救出」を口実に自衛隊法改定を繰り返し、その都度戦闘地への派兵のハードルを下げてきた。
1994年、それまで民間チャーター機に限られていた在外日本人の輸送に、自衛隊機を使えるようにした。10年後の2004年、情勢が悪化したイラクから報道関係者10人を自衛隊機で隣国クウェートに運んだのが最初の事例となった。
07年には「付随的任務」から「主たる任務」に引き上げた。15年の戦争法制強行の過程では「輸送」に加えて「保護」を任務とし、武器使用の制限を緩めた。
22年4月には、輸送対象を日本人以外にも拡げることとあわせて条件であった「安全に実施することができる」を削り、「危険回避する方策を講じることができる」に変えた。原則「政府専用機」の使用規定を廃止し、閣議決定も不要とした。戦闘地への派兵が防衛相の一存でできることになった。
昨年12月に改定した軍事3文書の一つ国家安全保障戦略には「在外邦人などの保護にあたって、ジブチにある自衛隊の活動拠点を活用していく」と記されている。今回のいち早い自衛隊派兵の方針は、既に準備されていたのだ。
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4月末からアフリカ4か国を訪問した岸田文雄首相は、数千人の死傷者を出しているスーダンでの停戦協力はほとんど口にせず、G7への根回しに終始した。日本が果たすべき平和外交が問われている。 |
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