2023年05月12・19日 1772号

【DSAニックのアメリカレポート 《第3回》 公立教育の予算削減に抗する/高校生も ともにノー】

 私が住む米北西部ワシントン州エドモンズ市の教育委員会は先日、年間予算3億9700万ドルのうち、1400万ドルの削減を承認した。予算削減の影響で、32人の教員を含む数十人の職員が職を失い、幼稚園が一つ閉鎖される。エドモンズだけでなく、ワシントン州では複数の都市で予算削減が発表されている。生徒数減少やコロナ禍で連邦政府が支出していた特別予算の終了などが理由とされる。

市民発言 深夜1時まで

 4月18日、エドモンズ教育委員会は予算削減についての特別会議を開いた。私も、学区の小学校の職員として、労働組合のTシャツを着て会議に向かった。

 会場入口前には大勢の人が押し寄せていて、スクールバンドに所属する高校生たちが抗議行動として楽器を演奏していた。会場のドアが開き、私たちは会議会場になだれ込んだ。バンドの演奏は止まらず、まるでアメフトの試合に挑むかのような雰囲気だった。

 集まったのは学区の生徒、保護者、そして職員。約140人が「パブリック・コメント」(市民が教育委員会に向けて発言できる)に登録していた。会議会場の席は足らず、別室にも会議の様子が中継されていた。冒頭約1時間は、学区の予算の現状についての報告と予算削減に伴う職員削減計画の発表。学区当局幹部が教育委員会に向けて報告する中、生徒たちの演奏がずっと聞こえていた。会議は5時間近く続き、発言も90人近く。終わったのは深夜1時を回ってからだった。

 エドモンズの予算削減で最も注目を集めていたのが、音楽プログラムの削減だ。この地域は芸術や音楽が盛んで、音楽プログラムが豊富な学区として知られている。音楽プログラム削減に反対して、多くの中高生が集まり、演奏や演説で抗議したのだ。「SAVE ESD MUSIC(エドモンズ学区の音楽を守れ)」と書いたステッカーも参加者に配られていた。他にも、発達障害を持つ子どもなどの特別教育プログラムへの影響や、児童の精神的サポートをする職員の削減、各クラス生徒数の増加などが懸念される。次から次へと、市民は予算削減への反対を訴えた。

 しかし、翌週25日、エドモンズ教育委員会は予算削減を承認。反対の声の影響で、削減は事前に計画されていた規模よりは少し小さかったものの、学区当局は、来年度以降も予算削減が必要になると発表している。公立教育の危機は続く。

若い世代の抗議に希望

 今回の結果は残念だが、希望を感じる部分もあった。特に、若い世代の抗議だ。教育委員会の会議には、スクールバンドの生徒の他に、多くの中高生が参加した。パブリック・コメントでは、高校生らが「ハイスクールバンドは、内向的な私たちの集う場所です。私たちのホームである音楽プログラムを守ってください」「私の家族が経済的に苦しんでいる中、先生はいつでも相談にのってくれました。彼女の職を切らないでください」と、予算削減が彼らの教育にどう悪影響を与えるかを訴えた。この若者たちの声には力をもらった。まだ投票もできない子どもたちが、自分たちの未来のために政治に参加したのだ。

 公立学校の予算削減は、根本的には資本主義の問題である。裕福な資本家たちと大企業は税金をほとんど払わない。そのため、誰もが無料で通えるはずの公教育制度が危機に陥っている。子どもたちの未来のため、誰もが教育を受けられる社会を創るためには、資本主義を問題視し、闘い続けなければならない。



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