2023年05月26日 1773号

【もはや大阪限定とは言えない/維新支持の広がりはなぜ/「弱者の味方」イメージで第一位】

 日本維新の会が存在感を増している。先の統一地方選挙では、目標の600を大きく上回る774議席を獲得。首都圏をはじめとする全国の大都市でも勢力を拡大した。維新が自民党政治に対する不満の受け皿となり得たのはどうしてなのか。その理由を「政党イメージ」を鍵に考察する。

首都圏でも勢力拡大

 維新は地元大阪での4選挙(府知事選、市長選、府議選、市議選)に完勝。さらに、これまで苦戦していた首都圏など関西以外の地域でも躍進を遂げた。

 東京の場合、維新は都内の地方議員数を従来の22人から73人に急増させた。議員選挙が行われた都内41市区のうち11市区で1位当選者を出した。神奈川県議選では告示前の0人から6人増やし、横浜市議選でも0人が8人になった。

 他の大都市圏はどうか。福岡市議選では議席数を1から7に伸ばして単独会派を結成した。札幌市議選では公認した新人6人のうち5人が当選した。惨敗した名古屋市議選のような例外もあるが、維新支持は全国的な広がりをみせている。

 各種世論調査をみると、維新の政党支持率は立憲民主党を逆転している。「期待する野党」を聞いた質問では、維新51%が立憲27%に大きく差をつけた(日本経済新聞社とテレビ東京の調査)。人気の面ではすでに「野党第1党」になっているといえよう。

 では、どういう層が維新に期待を寄せているのか。分析の手掛かりになる調査研究がある。関西大学の坂本治也教授らのグループが行った「政党イメージ」の調査だ。調査は2022年2月、全国の18〜79歳を対象にWEBアンケート形式で行った。ここでは特に興味深いデータを紹介したい(詳細は昨年4月3日付の現代ビジネス配信記事)。

一般人の感覚に近い?

 5つのイメージを挙げ、それらに当てはまる政党を選択(複数回答可)してもらう設問がある。維新は2つの項目でトップに立った。「経済的弱者の味方になってくれる」12・2%と「一般人の感覚に近い」22・3%である。「政権担当能力がある」は13%で、非自民の中では1位。大阪府限定のサンプルだと25・5%をマークした。

 「経済的弱者の味方」とのイメージは意外に思われるかもしれない。維新は競争と自己責任を信条とする新自由主義の政党だ。実際、「日本大改革プラン」と称して、基礎年金や児童手当、生活保護を廃止し月6万円を支給するベーシックインカム案を打ち出すなど、「生活困窮者に冷たい」政策を掲げている。

 しかし、最も「経済的弱者の味方になってくれる」と思われている政党は維新なのだ。メディアや論壇で通常語られる維新像と有権者のイメージには大きな隔たりがある。

 ちなみに「経済的弱者の味方になってくれる」とのイメージを立憲民主党に抱いている人は5・8%しかいない。「福祉の党」が売りの公明党も9・7%にすぎず、両党とも自民党の10・2%を下回った。

 維新が特に強いのは「一般人の感覚に近い」とのイメージで、他の政党を大きく引き離している。自民は12%で、立憲は5・7%。共産党に至っては4%で、NHK党(調査当時)以下であった。



 このような維新に対するプラスのイメージと政治的関心や政治知識の関係をみてみよう。調査結果からは「投票率が高い高齢者や高学歴者」や「普段から政治のニュースに積極的に接していると自認する者」にそうした傾向があることがみてとれる。

 つまり「政治に無知な人びとが維新を支持する」との見立ては俗論にすぎない。あくまでも他の政党と比べての話だが、政治に関心があり一定の知識もあるという人に、維新の政策は「一般人の感覚」に近く「経済的弱者」の助けになると認識されている。ゆえに、自公政権への批判票の受け皿になることができるのだ。

中間層が抱く不満

 関西学院大学の冨田宏治教授は「維新のコア支持層は勝ち組、中堅サラリーマンだ」と指摘する。彼らは比較的高い収入を得ているが、その生活に余裕はない。教育費や医療費、税金や社会保険料の負担が重くのしかかっている。おまけに、気を抜けば負け組に即転落という競争を不断に強いられている。

 そうしたストレスを抱える彼らの目に、現状はきわめて不公平に映る。「公的サービスの恩恵を受けているのは老人、病人、貧乏人ばかり。自分たちは取られるだけ」というわけだ。だから、「既得権益層」から分配を剥ぎ取り「現役世代・将来世代」にまわすと主張する維新を、「真の経済的弱者=自分たち」の味方だと感じてしまうのではないか。

 維新府政が先日公表した高校授業料の無償化素案(所得制限の撤廃)に対し、次のような声が寄せられている。「実は、中年収層が一番きついんですよ。それなりに税金を払い、低年収層の私立進学を間接的に支援しているのに、自分の子どもの私立進学をあきらめないといけない状況はいびつです。そういうのが解消できるのはいいかと思う」(ヤフーニュースのコメント欄より)

見えない多数派

 もっとも、今の維新の強みである「社会的弱者の味方」や「自分たちの感覚に近い」とのイメージは絶対的なものではない。両項目における圧倒的1位は半数近くが選んだ「該当する政党なし」だからである。

 政治に何の期待も見出せず、誰にも守られず、選挙全般に背を向けている人びと―。彼らこそ現代日本の最大多数派なのだ。そうした人びとに寄り添い、信頼を得、社会変革の具体策を示すことが左派・民主勢力に求められている。

 方向性ははっきりしている。雇用・経済、教育・医療・社会保障、環境や安全保障など、あらゆる分野において人間の尊厳を譲らず、誰一人見捨てない姿勢を貫くことだ。    (M)

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