2023年06月02日 1774号

【読書室/ルポ 食が壊れる/私たちは何を食べさせられるのか?/堤未果著 文春新書 900円(税込990円)/グローバル企業の食支配に抗する】

 本書の裏表紙には「巨大資本が仕掛ける強欲マネーゲーム〔食の文明史的危機〕を描き出す」とある。

 有害なグリホサート系除草剤が残留する遺伝子組み換えの大豆由来の「人工肉バーガー」を「気候変動」と「食糧不足」を解決すると宣伝し、学校給食に進出を図る米インポッシブル・フーズ社。牛の細胞からつくる「培養肉」技術にもグローバル資本は手を広げている。コスト面や細菌感染のリスクなど問題だらけなのに自民党「推進議連」は、和牛細胞の培養肉を日本ブランドで売り出すつもりだ。バイオ業界は遺伝子を直接操作する「ゲノム編集」へとシフトし、何の表示もなしに「ゲノム編集食品」が流通し始めている。

 2021年の国連サミットは、「家族農業の10年」(17年)や「小農の権利宣言」(18年)の流れに逆行し、「遺伝子組み換え技術」「デジタル化」(農業のビッグデータ収集)などがキーワードとされた。それを仕組んだのはビル&メリンダ・ゲイツ財団だ。

緑の革命≠ヘ大量の化学肥料と殺虫剤によって土壌の劣化を招いた。グローバル資本の食の支配と土壌の劣化に抗する取り組みは世界各地にある。学校給食に有機農法の食材を導入する日本の例、主要作物のトウモロコシと大豆の間に牧草や小粒穀物を植え輪作を工夫することで土壌の回復をはかる米国の例、種子や農薬、化学肥料の購入をやめ、自家採取した種を交換し合い協同組合を結成した西アフリカ・ブルキナファソの例、ゲノム編集の表示がないなら「ゲノム編集ではない」と表示することで対抗しようという日本の例など、参考になる事例が多数紹介されている。(I)
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