2023年06月09日 1775号

【G7広島サミット 軍需産業に大きな成果=^グローバル資本は戦争を望んでいる】

 広島開催を強調したG7サミット。岸田文雄首相は「核廃絶」ではなく、ウクライナ戦争継続にむけ「結束」を強調する場に使った。最も象徴的だったのは、債務上限引き上げ法案の対応で来日を明言できなかったバイデン米大統領が出席し、ウクライナにF16戦闘機の供与を発表したことだ。

「F16供与」公言

 バイデンは、グローバルサウス諸国とのセッションを欠席した。債務問題の米国内調整を聞くためだった。対ロ経済制裁から距離をおいているグローバルサウスの懐柔より国内問題を優先しなければならないのが今のバイデンの置かれた状況だ。債務問題は来年行われる大統領選挙の前哨戦となっているからだ。

 米政府の債務額はここ20年の間にGDP比35%から95%へ60ポイント増、額に換算すれば15兆ドル(約2000兆円)になる。このうち、08年の金融危機とコロナパンデミックによる財政赤字の補填が約7兆ドル、残る8兆ドルは戦争費用だという(ブラウン大学ワトソン研究所)。

 アフガニスタンからウクライナまで、米政府が費やした戦費は米国債により調達された。つまり、借金をして軍産複合体に市場を提供してきたということだ。

 バイデンはゼレンスキーに会い、「F16供与」を欧州諸国が集まるG7の場で公言することが必要だった。軍事支援継続にむけた「結束」を示し、大統領選のスポンサーとなる軍産複合体に引き続き市場があることを示すことにしたのだ。


武器市場を拡大

 今年2月の時点では、F16供与を否定していたバイデン。ロシアを刺激しないよう配慮したと報じられていたが、そうではない。

 F16を生産してきたジェネラル・ダイナミックス社(現ロッキード・マーチン社)。主要生産ラインはすでにF35に切り替わっている。欧州に残る中古をウクライナで消費させ、F35への置き替えを加速させる算段がついたとみるべきだろう。

 機体提供やパイロット訓練に声をあげているオランダやデンマーク、ベルギーは既に20〜30機が退役し、F35導入計画が進んでいる。NATO(北大西洋条約機構)は軒並み軍事費の増額を表明している。

 1996年から98年にかけ米軍需産業は好戦勢力と結託し、5000万ドル以上の資金を使いNATOの拡大にむけ強力なロビー活動を行った(5/22情報クリアリングハウス)。NATO拡大は軍需産業に数十億ドルの市場を提供した。そして今、ウクナイナ戦争は1日でも長く続いてほしいのだ。

 日本政府もまた、ウクライナに軍用車両100台などの軍事支援を表明した。今後、軍事費倍増により米兵器を大量購入すれば、退役させる兵器が大量に出る。この「中古武器」を東南アジア諸国に輸出しようとする企てがある(『選択』5月号)。

 そのためには、「殺傷兵器の供与禁止」を解除する必要がある。この突破口に、ウクライナ支援を使おうとしているのだ。これが、G7広島サミットの「成果」なのだった。

軍事力を放棄せよ

 ゼレンスキーが会おうとしなかったブラジル大統領ルラ・ダ・シルバは、G7後の記者会見で、「ウクライナ情勢をG7のような形式で議論するのは不適切。当事者を交え国連で議論する必要がある」と述べた(5/22タス通信)。

 議長国として岸田が招待したグローバルサウスの諸国は対中国軍事包囲網「自由で開かれたアジア太平洋構想」に取り込むべき対象だったが、ここでは思惑通りの「成果」は得られなかった。

 軍事力による植民地支配を経験している中南米やアフリカ諸国は欧米の軍事力による支配拡大に警戒感を持っている。それはロシア、中国の武力による支配に対しても同じだ。

 問われているのは、親米なのか、親中露なのかといった政府間の組み合わせではない。軍産複合体に市場を与えるのか、完全軍縮をめざすのか。グローバル資本主義が人の命で儲けるのを許すのかどうかなのだ。

  *  *  *

 「原爆投下が戦争を止めた」。いまだに米国内に根強く残る理屈だ。しかし真相は「原爆を投下するまで日本を降伏させるな」ということだった。当時の米大統領トルーマンがソ連をけん制し、自らの指導力を誇示しようとしたために引き起こした戦争犯罪だった。「ウクライナの独立を守れ」と軍事支援を呼びかけるのは、結局、軍産複合体の利益のためでしかないのだ。
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