2023年06月09日 1775号

【嘘で固めた「核軍縮」演出/G7広島サミットのまやかし/実態は武器供与サミット】

 岸田内閣の支持率が大きく上がった。メディアは「G7広島サミットの外交成果が押し上げた」と解説する。しかし岸田文雄首相が自画自賛する「広島ビジョン」なるものは「核抑止力」論の正当化にすぎない。被爆者から失望と怒りの声が上がるのは当然だ。

内閣支持率が上昇

 G7の各国首脳が訪れた広島市の平和記念公園と原爆資料館。設計を手掛けたのは建築家の丹下健三である。資料館と慰霊碑が川向こうの原爆ドームと一直線になるように配置されており、資料館本館のピロティやアーチ状の慰霊碑を通して原爆ドームの姿を見ることができる。

 G7サミットの議長役を務めた岸田首相は、この景観を舞台装置として最大限に利用した。G7首脳を原爆資料館に招き、慰霊碑と原爆ドームを背景にした記念写真を撮った。核軍縮のイメージを視覚的にアピールするためである。

 閉幕後の議長国記者会見も原爆ドームを背に行われた。「核兵器のない世界という理想に向けた基礎を確保し、核軍縮に向けた国際社会の機運をいま一度高めることができた」。岸田首相がこう語ると、日本のメディアは「広島開催『歴史的意義』」(5/22読売)などと呼応した。

 こうした絶賛報道の影響か、岸田政権の支持率が爆上がりしている。サミット期間中に行われた読売新聞の調査では56%、毎日新聞の調査では45%をマーク。いずれも前月の調査より9ポイント上昇した。支持率アップに気をよくした自民党内からは、早期の衆院解散・総選挙を期待する声が上がっている。

 しかし核軍縮運動に携わる人びとや被爆者は、G7サミット及び岸田首相に厳しい評価を突きつけている。「大変な失敗」「価値ある成果には程遠い」「怒りを覚えている」等々。この反応はどうしてなのか。

核禁条約を無視

 今回のサミットでは「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」なる個別声明が発出された。声明は「ロシアのウクライナ侵略における核の威嚇、使用は許されない」とけん制。中国に対しては「加速している核戦力の増強」への懸念を表明した。

 一方、G7の核兵器に関しては「侵略を抑止し、戦争や威圧を防止する」抑止力だとして正当化している。INF(中距離核戦力)廃棄条約やイラン核合意からの一方的な離脱表明など、核軍縮に反する米国の行為は一切スルーなのだ。

 しかも、声明は非核保有国60か国以上が批准する核兵器禁止条約に一言も触れていない。核兵器禁止条約に背を向ける岸田首相は、米国の「核の傘」を肯定しつつ核なき世界を訴える二律背反を「矛盾しない」と言い切った(5/21)。

 このように、岸田首相の「核軍縮」演出はまやかしで、G7サミットのメインテーマはウクライナへの軍事支援であった。米国製のF16戦闘機の供与がそうである(2面参照)。日本政府もトラックなどの自衛隊車両を100台規模で提供すると約束した。産経新聞はさらに踏み込んで「G7議長国の日本も殺傷力を持つ兵器の提供を実現するとき」(5/22主張)とけしかけている。

被爆者の怒り

 被爆地ヒロシマを“対ロシア、対中国軍事同盟”の結束をアピールする舞台として利用し尽くした岸田首相。そのふるまいに批判の声が高まっている。

 ノーベル平和賞を受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のダニエル・ホグスタ暫定事務局長は、広島ビジョンについて「危険ですらある内容」と厳しく批判日本政府に対しては「ある意味、核保有に加担している」と非難。「現状を変えるつもりがあるなら、核兵器禁止条約を支持するのが唯一の論理的な選択だ」と述べ、今年開催予定の第2回締結国会議へのオブザーバー参加を求めた。

 世界各地で自らの被爆体験を語り、核兵器禁止条約の採択に大きな役割を果たしたサーロ節子さんは「G7サミットは大きな失敗だった」と批判した。「広島まで来てこれだけしか書けないのか。(原爆による)死者に対する侮辱だ」

 日本原水爆被害者団体協議会の木戸季市事務局長は「核抑止(の前提)に立った議論がされ、戦争をあおるような会議になった。大変怒りを覚えている」と語った。また、ウクライナへの軍事支援をG7として行う方向で一致した点については「戦争を長引かせる、間違ったやり方だ」との批判が相次いだ。

 「武器の供与(の約束)を広島の地でしてほしくなかった。兵器で命は守れない」。児玉三智子・被団協事務局次長の言葉である。御用メディアのG7サミット「大成果」報道にごまかされてはならない。(M)

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