2023年06月09日 1775号

【「総理、逃げるんですか」の背景/岸田G7会見は「仕込み」だった】

 「総理、逃げるんですか」。G7広島サミット閉幕後の議長国記者会見(5/21)で、会見を終えて演台から離れようとしていた岸田文雄首相に対し、一人の記者がこんな言葉を投げかける場面があった。

 この記者は独立メディア「Arc Times」の尾形聡彦編集長。彼の手記によると、会見前に、ある大手メディア記者から次のような内幕を聞いていたという。「会見は30分間。会見で質問する社も、質問も、事前に全部決まっていますよ」

 実際、質問の時間は10分足らず。内閣広報官が指名したのは時事通信やNHKなどの4社で、いずれの質問に対しても岸田首相は手元の紙を読み上げるだけだった。つまり、政府と御用メディアが慣れ合った「記者会見もどき」の茶番劇がくり広げられたのである。

 尾形記者にはどうしても岸田首相に説明を求めたいことがあった。被爆地・広島の名を冠した首脳声明(核軍縮に関する広島ビジョン)に、核兵器の保有を正当化する核抑止力論を肯定する文言が書き込まれたことである。たしかに、この記者会見で最も聞かねばならない質問だった。

 だが、事前に選ばれた4社からは広島ビジョンに関する質問は出てこない。記者席の最前列に陣取った尾形記者は質問を求めて挙手し続けたが、内閣広報官は見て見ぬふりをした。そこで、会見を終え去ろうとしていた岸田首相を呼び止めるために、「逃げるんですか」との言葉をぶつけたというわけだ。

 岸田首相は演台に戻ってはきたが、広島ビジョンの意義を一方的に述べただけだった。言いたいことだけを言って立ち去ろうとする首相に、尾形記者は「広島で大きな間違いを犯したんじゃないでしょうか」と呼びかけたが、今度は見事にスルーされた。 (O)
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