2023年06月16日 1776号

【朝鮮 衛星打ち上げ 政府「ミサイル」と危機演出/琉球弧で「迎撃」演習を強行】

 朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が5月31日早朝6時27分、「軍事偵察衛星の打ち上げ」を試みた。

 日本政府は6時半、全国瞬時警報システム(Jアラート)で沖縄県を対象に避難情報を出した。ロケット発射から3分後だ。メディアは一斉に緊急報道に切り替えた。政府が「落下の危険はない」として「避難解除」を発表したのは7時4分。発射の37分後だった。


予定のシナリオ

 この騒動≠ノ何を見なければならないか。

 まず、報道内容が政府に支配されているということだ。どの局も朝鮮が弾道ミサイルを発射。落下の危険。迎撃の準備は―≠フパターンにはめる報道を30分間繰り返した。

 朝鮮の発表によればロケットは1段目の切り離し後、2段目のエンジンが点火しなかった。打ち上げ後7分前後のことだ。つまり、メディアは少なくとも20分間、ありもしない「危険」を吹聴していたことになる。

 報道各社が「ミサイル」と表現するのは、政府の誘導であることは明らかだ。5月29日、松野官房長官は朝鮮の通告「新型衛星運搬ロケット」を「衛星≠ニ称する弾道ミサイルの発射予告」と発表している。意図的に言い換えたのだ。

 浜田靖一防衛相は4月末、破壊措置準備命令を出し、迎撃ミサイルPAC3を石垣島や宮古島、与那国島に移送させている。昨年12月に朝鮮が、23年4月中に「軍事偵察衛星の発射の最終準備を終える」と表明したことを受けた動きだった。

 防衛省は、この時点で偵察衛星と判断し、定時定点観測をするのに都合のよい極軌道(地球上の両極上空を通る軌道)に乗せるため、南に向けて発射されるとみた。その上で、「弾道ミサイル」と言い続け「臨戦態勢」を演出。離島への輸送訓練を強行したのだ。

 避難対象とされた沖縄では「危機感を煽るだけだったのではないか」(5/31琉球新報)との声がある。「(PAC3)部隊を展開すること自体が目的だったのではないか」と防衛省の意図を見透かしている。

 実際、朝鮮の打ち上げ6日前、5月25日には韓国が初めて自前のロケットで観測衛星を打ち上げている。打ち上げは南向き。沖縄の上空を通過している。防衛省は「落下の危険」に備えたかと言えば、まったく何もしなかった。破壊措置命令は出さなかった。

 つまり防衛省は、朝鮮を仮想敵国とし、衛星打ち上げをミサイル発射に見立て、琉球弧の島々での「ミサイル防衛配備」の軍事演習を報道機関を巻き込んで実行したのだ。


問題は宇宙軍拡

 政府が実際に危機感を抱くのは軍事衛星≠ナあるところだ。上空からのスパイ活動(画像分析)や誘導ミサイルの攻撃目標データ更新などの役割を負う軍事衛星技術を朝鮮が手に入れれば、自衛隊の優位性はなくなっていくからだ。

 米国家安全保障会議のカービー戦略広報官は「失敗か成功かに関係なく金正恩(キムジョンウン)(国務委員会委員長)と北朝鮮の科学者・技術者が一つ一つの打ち上げから学び、(技術を)改良し、適応しているのが重大な問題だ」(6/2毎日)と記者会見で語っている。

 自衛隊は2008年の宇宙基本法の制定を受け、20年に初めて宇宙部隊を新設し、22年には宇宙作戦群2個隊へと増強している。軍事3文書の中では「宇宙領域」について、「米国との連携強化、民間衛星の利用」の他「極超音速滑空兵器の探知・追尾能力の獲得」(防衛力整備計画)と踏み込んでいるが、まだまだ米軍頼みの段階だ。

 一方朝鮮は、核・弾道ミサイルの軍事技術を着実に身に着け、さらに宇宙空間へと軍事力の強化をはかっている。朝鮮に言わせれば「抑止力」を高めているに過ぎないことになる。つまり「抑止力」とは相手にとっての脅威であるということがよくわかる。

  *  *  *

 「たとえ衛星でも、弾道ミサイルの技術を使った発射は安保理決議違反」と日米両政府は朝鮮を非難した。金与正(キムヨジョン)国務委員は「(朝鮮の衛星打ち上げが糾弾対象なら)米国をはじめ、すでに数千個の衛星を打ち上げた国すべてが糾弾されなければならない」と反論する。もちろん、衛星を運ぶロケットと核爆弾を運ぶ大陸間弾道ミサイルは同じ技術である。どの国であっても軍事緊張を高める行為は許されない。宇宙は平和的共同利用でなければならず、そのためにも、地上での軍事的敵対関係が解消されなければならない。軍事同盟解体、軍縮こそ必要なことなのだ。
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