2023年06月16日 1776号

【読書室/言いたいことは山ほどある 元読売新聞記者の遺言/山口正紀著 旬報社 1600円(税込1760円)/体制翼賛のメディアを糺(ただ)す】

 著者は、1973年から2003年まで読売新聞の記者であった。権力を監視し人権を守るメディアであろうとし、報道被害者の支援にかかわってきた。読売新聞は、著者が社外メディアで書いたものを問題視して記事職から外した。退社した著者は、『週刊金曜日』やインターネットメディア「レイバーネット」などでコラムを書き続けてきた。

 本書は、2020年から22年に発表された冤罪やメディアによる人権侵害などのコラムの一部から成る。各コラムの見出しに著者の言いたいことが表現されている。いくつか紹介する。

 20年6月、滋賀県日野町で起こった殺人事件(84年)を巡る裁判官人事を取り上げた。「第一次再審請求を棄却した判事が第二次請求の裁判長に?」の見出しだけで、司法がどれほど異常な状況かが分かる。

 21年1月、袴田(はかまだ)事件の再審にかかわって「冤罪(えんざい)に加担したメディアの責任も問い直したい」。一審で無罪判決を起案した熊本裁判官の苦悩も重ねて書かれている。袴田裁判は裁判官にも深刻なものを残したのだ。

 22年1月、読売新聞と大阪府(=維新)との「包括連携協定」の問題を指摘する。見出しは「ジャーナリズムを放棄した『監視対象との癒着』宣言」。著者は「とうとうここまできたか。安倍政権下で政府広報紙化を強めた読売は、今度は『自民党より右』の右翼政党と手を結び『壊憲連合』の機関紙化へと動き出した」と厳しく批判する。

 書名の『言いたいことは山ほどある』は著者の無念の思いでもある。著者山口は22年12月、本書の発行を見ることなく死去。志を継ぎ、理不尽を正すことが呼びかけられている。(I)
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