2023年06月23日 1777号

【未来への責任(376)  今からでも遅くはない】

 6月23日、日本製鉄(以下、日鉄)は第99回定時株主総会を開催する。株主総会では、恐らく今年も「徴用工」問題に関して議論がされる。それを想定し、総会議案の中では「当社は、日韓両国政府間の外交交渉の状況等も踏まえ、適切に対応致します」と書いている。

 昨年の株主総会では、「韓国の政権交代や日韓両国政府による外交交渉の状況等も踏まえ、引き続き適切に対応して」いくと言っていた。

 実際、交代した尹錫悦(ユンソンニョル)政権は、日韓関係の修復を進めた。3月6日には「強制徴用大法院判決関連 解決法」(以下、「解決策」)を発表。韓国の「日帝強制動員被害者支援財団」(以下、「財団」)が被告企業(日鉄)に代わって原告に賠償金相当額を支払うことになった。

 これで被告企業は1円も払わず、謝罪もしないで済むことになった(はずである)。これを日本政府は「日韓関係を健全な関係に戻すためのもの」と評価した。シャトル外交は回復し3〜5月にかけて日韓首脳会談を3回も開催。そして、この国では「徴用工」問題はもう「終わった」かのような空気が漂っている。

 しかし、日鉄は総会議案が示すように、いまだに「適切な対応」を探らざるをえない状況だ。

 なぜか。それは「解決策」が日韓の政府間関係を「健全」な状態に戻すものであっても、大法院判決を「消滅」させるものではないからである。「財団」が肩代わりしても、それで日鉄の債務は消滅しない。「財団」が求償権を持つことになる。尹大統領は「求償権の行使は想定していない」と言ったが、時効は10年だ。尹大統領の退任後はどうなるのか流動的だ。

 日本政府は二言目には「1965年請求権協定で解決済み」と言う。しかし結局、大法院判決から日鉄を「自由」にはしてくれなかったのである。

 日鉄は2012年6月株主総会で、韓国の「徴用工」裁判について尋ねられ、「引き続き裁判において当社の主張の正当性を明らかにしていく」としつつ、「最終判決には従う」(佐久間常務〈当時〉)と述べていた。

 翌13年8月18日付『産経新聞』は、「新日鉄住金 韓国訴訟 賠償の意向 戦時徴用敗訴確定なら」と大きく報じた。日鉄は裁判で賠償命令が出たら従う意向だったのである。

 それを安倍政権(当時)が止めた。そのため日鉄は18年に大法院判決が出ると「日本政府の対応状況等もふまえ、適切に対応」していくと言わざるをえなかった。

 それから4年半、状況は何も変わらなかった。「解決策」では一件落着しなかった。“こんなことならいっそのこと判決を履行した方が良かった”―日鉄経営陣はそう考えているのではないか。そうすべきだ。今からでも遅くない。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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