2023年06月30日 1778号

【ローカル線切り捨てへ「活性化再生法」改定/移動の権利 公共交通守れ】

コロナを理由に

 「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」(活性化再生法)の改定法が4月21日、成立した。輸送密度(1日1kmあたり輸送人員)が千人未満の線区を中心に、存廃協議のための法定協議会を設置し、3年以内に結論を出すよう求めるものだ。

 ローカル線の利用実態は長期低落傾向が続いてきたが、コロナ禍で大都市部の通勤通学客、観光客が大幅に減少。国土交通省に設置された「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」は2022年7月、儲かる路線で儲からない路線を支える「内部補助」制度が機能しなくなったとして、路線見直しのための法定協議会制度を設けるよう求める「提言」を公表した。JR各社も相次いで地元との存廃協議の意向を表明した。

前進と改悪

 活性化再生法は2007年に制定された。地方自治体が、サービスを強化し便利にしたい公共交通機関を指定して「地域公共交通活性化再生計画」を作成し、国交大臣の認定を受ければ補助金が支給される。従来の制度ではバス・タクシーのみだった補助対象を鉄道・船舶にも拡大した。「これ以上国民の負担を増やさない」ため「今後は赤字補填の借入金はもとより、財政援助をも国には求めない」(国鉄再建監理委員会答申、1985年)とした国鉄分割民営化以降の新自由主義的鉄道政策に変更を迫る前進面を持っていた。

 しかし今回の改定では、地方自治体が最も強く求めたローカル線の日常の運行経費に対する補助制度の創設が盛り込まれなかった。まちづくり予算である社会資本整備総合交付金の適用対象を鉄道に拡大したことは一定の前進だが、それでも補助対象は鉄道のサービス改善など運行経費以外の部分に限られる。

 法定協議会「特定線区再構築協議会」について、従来は地方自治体側からしか開催を求められなかったのに対し、今後は鉄道事業者からも開催を要求できるようにしたことは改悪だ。自治体をしのぐ力を持つ鉄道事業者に地方の市町村が抗しきれないことは、この間、JRの要求通り5線区が廃止に追い込まれた北海道を見れば明らかである。

 輸送密度が特に低い区間にのみ、法定協議会で合意されれば割増運賃を認める「協議運賃制度」を導入したことも重大な問題だ。極端な場合、「近くの駅に行くほうが、遠くの駅に行くより高い」という逆転現象さえ生じかねない。「同一条件の同一距離なら同一運賃」という基本的制度を根底から覆す結果となる。

ZENKOで方針論議

 「ローカル線の存廃や運行計画の変更が企業の論理に委ねられ、地域の公共交通網の構成を脅かす現状は、看過しがたい」「ローカル線は、多くが中山間地域における貴重な移動手段であり、その廃止や著しく利便性を欠いた減便は、通学・通勤・通院など中山間地域における生活を困難にし、地域そのものの衰退を加速する」―コロナ禍による鉄道の危機を受け、2021年8月、全国23道県知事が連名で路線網の維持を求めた「地方の鉄道ネットワークを守る緊急提言」はこう訴える。同時に、JRを含めた鉄道事業者の経営基盤の安定化への支援や、鉄道廃止手続きを届出制から以前の許可制に戻すこと等も求めている。鉄道が持つ社会的性格を踏まえた切実で正当な要求である。

 JR東日本・東海・西日本3社が完全民営化された2001年の国交大臣指針に基づき、JR各社には路線維持の努力義務も課されている。地方の要求にも大臣指針にも反する今回の法改定は、政策の失敗を地域と住民に転嫁し新自由主義的政策で乗り切ろうとする国の姿勢を明らかにした。

 2023ZENKOin横須賀では、JR・リニア問題の分科会が引き続き開催される。活性化再生法の前進面を活かしつつ、法定協議会に地方の声を反映させ廃線を阻止する方針、闘う当事者を中心としたリニア中止の方針について論議する。グローバル資本のための交通を市民本位に転換するため、多くの参加で成功させることが必要だ。

分割・民営化反対派は今日の事態を予見していた
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