2023年06月30日 1778号

【「ない方がまし」 LGBT法/理解増進ではなく差別増進/維新の修正でより悪くなった】

 LGBTなど性的少数者への「理解増進法」が成立した。当事者が求めていたのは、性的少数者の人権を守るための差別禁止法である。ところが自民党内の極右勢力に迎合して後退を重ねた結果、「差別増進法」としか言いようがない内容になりはてた。

議論するほど後退

 「法案をめぐる審議は、性的マイノリティが直面している困難に真摯に向き合った議論がほとんど行われず、議論すればするほど内容は後退。最終的に、LGBT理解増進ではなく、むしろ理解を抑制する法案が成立してしまいました」

 性的少数者に関する情報を発信する「fair」代表理事の松岡宗嗣さんは、参院本会議での可決・成立(6/16)を受け、ヤフーニュースのコメント欄にこう書き込んだ。性的志向や性自認による差別を禁止する法律の制定を求めてきた全国組織「LGBT法連合会」も同日記者会見を開き、「当事者に寄り添うものではなく、初めての法律の制定を心待ちにしていた多くの当事者や支援団体を裏切るものと言わざるを得ない」と批判した。

 性的少数者が「当事者にとっての『暗黒時代』の到来につながるもの」(LGBT法連合会の6月13日付声明)とまで批判する「理解増進法」とは、どのような内容なのか。

 自民党を含む超党派の議員連盟が「LGBT理解増進法案」をまとめたのは2021年のことだった。罰則規定がない理念法ではあるが、「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」との文言が盛り込まれてはいた。

 だが、宗教右派などの岩盤保守に支えられた自民党内の一部議員が猛反対し、国会提出には至らなかった。今回も与党案をまとめる過程で議論は紛糾。結局、自民・公明の案に維新・国民民主の案をほぼ取り込む形で4党が合意した。

極右が言う抑止効果

 性的少数者が今回の新法で最も懸念しているのは、この法にもとづくあらゆる措置の実施について「全ての国民が安心して生活できるよう、留意する」との条項が加えられたことだ。極右勢力が吹聴する「女性だと自称すれば、男性も女性トイレや女湯に入ることができる」といった主張を念頭に、維新などが盛り込むように主張した。

 前述の松岡さんは「性的マイノリティが何か社会を脅かすようなニュアンスを帯び、多数派への配慮が必要だとしている。それこそがまさに差別であり、偏見にのっとった考え方だ」と厳しく批判する。

 留意条項には続きがあり、「政府は、その運用に必要な指針を策定する」とある。どういうことか。産経新聞は「急進的なLGBT条例が各地で制定される状況を念頭に、国として一定の指針を設ける狙いがある」(6/9)と解説する。

 実際、自民党LGBT特命委員会の初代会長である古屋圭司衆院議員は、自身のブログで「自治体による行き過ぎた条例を制限する抑止力が働くこと等強調したい」と語った。自治体が独自に制定したパートナーシップ制度や差別禁止条例をつぶすために使える法律になったと言うのである。

 学校で教育や啓発を行う場合について「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」という文言も追加された。これもまた、学校現場での取り組みを妨害する効果を狙った修正といえよう。

 「知識の着実な普及等」について定めた第十条からは、維新・国民案に沿うかたちで「民間団体等の自発的な活動の促進」が削除された。「特定の団体が行政からの補助金を受け続けるといった事態を防ぐ狙い」(6/9産経)があるという。入管法審議でも見られた維新流の「弱者攻撃」だ。

世界の潮流に逆行

 差別禁止法反対の急先鋒である自民党の西田昌司参院議員は「地方や民間団体が過激な方向に走らないよう歯止めをかける、規制するための道具としてLGBT法案が必要」だと言い切った。今回制定された新法が、性的指向や性自認による差別の解消という当初の目的とは真逆の内容であることがよくわかる。当事者が「こんな法律を通す国は本当に最低」「ない方がまし」と憤り、抗議の声を上げるのは当然なのだ。

   *  *  *

 広島で行われたG7サミットの首脳声明では「性自認や性表現、性的指向にかかわらず、暴力や差別を受けることなく、生き生きとした人生を享受できる社会の実現」がうたわれた。岸田文雄首相にしてみれば、議長国の体裁を取り繕うために「理解増進法」の制定を急いだのだろうが、出来たのは「差別増進法」というべきシロモノだった。

 自公政権、共犯者の維新や国民民主がのさばり続ける限り、日本は人権後進国から抜け出せない。(M)

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