2023年07月07日 1779号

【ミリタリー/自衛官候補生の射殺事件を考える/目を向けるべき戦闘への実像】

 6月14日、岐阜県の自衛隊射撃場で射撃訓練を受けていた自衛官候補生(訓練終了後、自衛官として部隊配属される)が小銃で教官ら2名を射殺、1名に重傷を負わせる事件が発生した。常に戦死、殉職≠も受け入れざるを得ない状況に置かれている自衛官(軍人)とはいえ、このような死は耐え難い悲しみであり、遺族に対して深い同情の念を禁じ得ない。

 事件を受けて、陸上幕僚長が会見を開き、「武器を扱う組織として決してあってはならない」と陳謝した。だが、今回の事件は「決してあってはならない」が、「特異な事件」として片付けられる問題ではない。

 軍隊の歴史を見れば、同一軍隊内での発砲事件は必ずしも珍しくない。戦闘時においても上官と部下との撃ち合いの証言は数多く存在している。戦後では、40年前に山口県で今回同様の訓練中の事件が起きている。この事件では、被疑者は「犯行当時心神喪失状態にあった」として不起訴処分の処理が行われている。

実戦的射撃訓練

 今回の事件でも、経緯や動機がほとんど明らかにされないまま地検に送検された。メディアでは「銃マニアだった」「サバイバルゲームが好きだった」と候補生の「特異な性格」や「不安定な精神状態」が報じられ、「防弾チョッキの着用」「射撃直前まで銃を渡さない」「的(まと)の方向にしか小銃が動かないように固定する」などの対策が提示されている。だが、そんな改善策では「どんどん訓練が実戦的でなくなる」(陸自幹部)と訓練の形骸化につながるジレンマがあるとの現場の声もあるという(6月20日、毎日新聞)。

 事件のキーワードは実戦的な射撃訓練≠ナある。正当防衛に限って武器使用が認められる警察と違い、軍隊の射撃訓練は敵の人間を確実に射殺する訓練だ。射撃にあたって要求されるのは自己の判断ではなく、ただ上官の命令によってのみ射撃すること。これが訓練の最も重要な目的とされる。「上官の命令には絶対服従で、言われたことだけをするように洗脳されます」(現役の20代陸自隊員)。

 陸上幕僚長が会見で述べた「武器を扱う組織として決してあってはならない」こととは、「殺人」そのものよりも「命令に従わない行動」である。取り調べは現在、捜査権限を持つ陸自の警務隊(各国軍隊の「憲兵」にあたる)が主体で行っていると報じられるが、警務隊は自衛隊組織そのものであり、内部の矛盾に迫ることはない。

 私たちが今回の事件を通して目を向けなければならないのは、実戦的な射撃訓練≠フ先にあるもの、中国との戦闘も辞さないと強大な軍隊として変貌した自衛隊の実像である。

 豆多 敏紀
 平和と生活をむすぶ会
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