2023年07月07日 1779号

【岸田政権の「労働市場改革」/リスキリング できないならリストラ 賃下げ/国家的首切り策を許すな】

 岸田政権は6月16日、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」を閣議決定した。新しい資本主義実現会議による「三位(さんみ)一体の労働市場改革の指針」(5/16)をそのまま盛り込んだもので、内容は(1)リスキリング(新たな技能の学び直し)による能力向上支援(2)個々の企業の実態に応じた職務給の導入(3)成長分野への労働移動の円滑化を行い、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図るとされる。

 岸田は、リスキリングで新しい技術を習得し、成長産業に移動し、高い賃金を得る≠ニ宣伝するが、でたらめだ。その狙いと実像を見てみよう。

リストラ助成金の再来

 6月20日、経済産業省が、リスキリングから転職まで支援する新たな制度を発表した。転職を希望する人が相談する費用やリスキリング講座費用の一部を政府が負担する。3年間でおよそ33万人を転職させる計画だ。この制度は現在就労中の労働者に対する直接の補助金制度で、事業主に対しては訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成するものとして人材開発支援助成金が作られている。

 思い起こされるのは、2014年に展開された労働移動支援助成金だ。当時人材派遣会社パソナの会長であった竹中平蔵らが提唱し、同制度の助成額引き上げと対象拡張を実現。人材派遣・職業紹介事業を行う再就職支援会社は、企業にリストラ推奨の営業を仕かけ、実務を請け負った。労働者と面談し「会社に居場所はなく、去るしかない」とあきらめさせ、自己啓発の一環として自らの仕事探しをさせ、転職先が見つからない場合は派遣労働者として登録させた。中には、退職後1年も経ずに以前の会社に派遣され前と同じ業務で賃金は3分の1という違法派遣の事例も。こうした「首切りリストラ助成金」が生んだ悪辣(あくらつ)な人材ビジネスの横行は、15年の国会で大問題となったものだ。


年齢給を職務給に

 今回の岸田の「労働移動の円滑化」政策は、これに「リスキリング」の要素を加えただけだ。多くの労働者にとっては雇用破壊と労働条件の低下を招く。政策の柱の一つ―職務給の導入≠ェそれを推し進める。

 例えば、「年収7%アップ」の賃上げを誇るロート製薬は、「年齢給」を廃止し「職務給」を導入。杉本雅史社長は「年齢給がなくなることで一部の社員には給与水準が下がるケースが生じる。減少分は補填するが2年間の時限措置。本人に一つ上の職務レベルで仕事を担う覚悟を持って昇格に挑戦してもらうことを期待」と語っている。

 一定の年齢給のある年代の部署や職務を変え、「技能が足りない」と賃金ダウンで総人件費を抑制し「自主」退職に追い込む狙いだ。リスキリングできなければ低賃金の職務につくしかない≠ニ、リスキリングとは労働者を諦めさせるための再教育となる。助成金制度を利用して労働者追い出しを加速させる企業が現れることは間違いない。

 すでに様々な派遣会社が、米国発祥の「アウトスキリング」=技術再習得教育をして労働者を外部に放り出すことをホームページで宣伝し始めている。

退職金廃止も

 21年度の企業の内部留保は500兆円超、10年連続で過去最高を更新している。だが、労働者の賃金は30年近く低下し続けてきた。ほぼ一部大企業に限られた「23春闘賃上げ」でさえ、物価上昇率に全く追いついていない。経営側は日本の賃金の低さは労働者の生産性が低いから。だからリスキリングだ≠ニすべてを労働者の自己責任にする。

 グローバル資本は今春、賃上げと同時に職務給導入を進め、年齢給を廃止した。賃金原資は大幅に削減される。「労働市場改革」で恩恵を受けるのはほんの一握りだけで、大半の労働者には賃下げや退職金廃止、リストラの道が待ち受ける。

 岸田政権の「労働力移動」政策は国家的なリストラ推進策だ。リスキリングに潜む「リストラの罠」を見抜こう。退職強要を告発し、ユニオンに結集し闘おう。
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