2023年07月07日 1779号

【未来への責任(377)/日本製鉄は社会的責任を果たせ】

 これまで日韓の最大の懸案事項とされていた徴用工問題。韓国の財団(日帝強制動員被害者支援財団)が被告企業の大法院判決の債務を「第三者弁済」することで「政治決着」が図られた。しかしこれは第三者弁済により債権が財団に移っただけで日本製鉄と三菱重工の債務が消えたわけではない。問題は未解決だ。

 国連は2000年、国連と民間がともに健全なグローバル社会を築くため、持続可能な発展に向け企業・団体が順守すべき人権尊重を含む「グローバル・コンパクト(UNGC)」4分野・10原則を提案し、現在世界約160か国、1万7500を超える企業・団体が署名している。また2001年、植民地主義克服のための「ダーバン宣言」を発表。2011年には「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」を3本柱とする企業が経済活動を行うにあたって守るべき「ビジネスと人権に関する指導原則」を決議した。

 さらに、企業の経済活動に人権尊重を求める国際社会の流れを受けて2017年には日本経済団体連合会も「企業行動憲章」を改定。第4章に「すべての人々の人権を尊重する経営を行う」ことを掲げ、2021年12月には具体的に企業が人権を尊重した経営を行うよう「人権を尊重する経営のためのハンドブック」を策定した。

 この人権の中には当然「強制労働」の根絶が含まれる。ILO(国際労働機関)専門家委員会は、日本の「戦時朝鮮人強制労働」が29号(強制労働)条約違反であると再三日本政府に勧告を行った。たとえ過去のことであっても日本製鉄も自ら行ったこの強制労働の責任を免れない。

 ところが6月23日に開催された株主総会において、「韓国人元徴用工の問題は、1965年の日韓請求権協定によって解決済みと認識しており、謝罪、韓国財団への資金拠出、和解、原告や代理人との面会等の特段の対応を行う予定はございません」と言い切った。

 会社は、世界各国の社会的な規範、文化、慣習の尊重なくして企業活動をグローバル展開できないという立場から「各国地域の法律の遵守」という企業行動規範を定めている。人権救済を命じた大法院判決を無視することは自ら掲げる企業行動規範にも反し人権尊重を重要課題として掲げる国際社会の信用も失う。

 過去のことであったとしても、企業が人権をないがしろにして経営を行うことは許されない。日本製鉄は、大法院判決の履行に代わる財団への資金拠出や被害者への直接の謝罪を行うことで企業としての社会的責任を果たさなければならない。

(強制動員真相究明ネットワーク 中田光信)

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