2023年07月07日 1779号

【もはや泥沼 マイナトラブル=^保険証廃止は天下の愚策/個人情報一元化はヤバすぎる】

 マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いでいる。健康保険証を廃止しマイナカードに統合する政府の方針に対し、自民党内からも批判が出始めた。そもそも、大事なデータは分散管理が基本である。個人情報すべてを紐付けるなんて危険すぎる。

医療機関の悲鳴

 「このままでは国民の命や健康、個人情報、財産を大きく損なうおそれがある。ただちに(マイナ保険証の)運用を停止すべきだ。来年秋の健康保険証廃止方針を撤回し、存続させるべきだ」。6月21日、全国保険医団体連合会(保団連)の住江憲勇会長は記者会見を行い、このように訴えた。

 同連合会はこの日、マイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」に関する実態調査の結果を公表した。マイナ保険証の読み取りシステム(オンライン資格確認)を導入している医療機関のうち、約65%が「トラブルがあった」と回答した。

 トラブルの内容(複数回答)は、「被保険者情報が『無効・該当資格なし』と表示された」が66・3%、「カードリーダーなどの不具合で読み取りできなかった」が48・4%、「マイナ保険証の不具合(ICチップの破損等)で読み取りできなかった」が20%、「患者から苦情を言われた」が12・4%だった。

 資格確認できず、いったん10割負担で医療費を徴収した事例が1291件あった。こうしたトラブルの対処策として、「(患者が持参した)健康保険証で資格確認した」が4117件あった。東京保険医協会は「今までどおり保険証を持参してください」と患者に呼びかけている。

 以下は医療現場から寄せられた声の一部である。「何のゆかりもない人の情報が登録されていた方もいた」「ご年配の方が機械の操作がわからず、何回も対応が必要で、通常業務に支障がでる」「資格確認ができず、患者さんに一旦10割をお預かりする説明を行ったが、クレームになり10割徴収できなかった」

 今回の調査で判明したトラブルは氷山の一角にすぎない。保団連の調査に回答した件数は約1万件。全国には約16万8千件の病院や診療所などがあるからだ。

なぜ使わせたいのか

 批判の高まりを受け、政府は省庁横断の「マイナンバー情報総点検本部」をデジタル庁に設置した。その初会合後の会見で岸田首相はマイナ保険証の問題に触れ、「全面廃止は国民の不安払拭のための措置が完了することが大前提だ」と語った。廃止時期を先延ばしする可能性に含みを持たせたかたちだ(6/21)。

 もっとも、首相の腹心と言われる木原誠二官房副長官は「紙の保険証廃止のとりやめはない」と明言している。岸田官邸のこうした態度に対し、自民党内からも「乱暴だ。一元化せず両方使えてもいいのではないか」(山口俊一衆院議院運営委員長)といった批判が上がり始めた。

 政府が健康保険証の廃止にこだわるのは、マイナンバーカードをすべての人びとに事実上強制し、使わせるためである。そうしないと、カードの使用を通じて大量の個人情報を収集し紐付けることができなくなる。「デジタル社会のパスポート」(岸田首相)とはそういう意味なのだ。

世界の常識ではない

 政府はマイナンバーカードの利用機会拡大をもくろんでおり、運転免許証や母子健康手帳、在留カードなどとの一体化を進める方針だ。民間サービスでの利活用も促進するという(6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」)。

 これほど多岐にわたる個人情報を紐付けた個人番号カードを導入し、その所持を強要する国は珍しい。米国には社会保障番号があり、本人認証の手段として広く使われているが、カードの作成は任意である。ちなみに券面には「絶対に持ち歩かないでください」との注意書きがある。番号を盗んだ「なりすまし犯罪」が多発しているからだ。

 ドイツではナチス政権によるユダヤ人迫害の教訓から、マイナンバーのような共通番号制度を設けることは憲法で禁止されている。英国にも共通番号制度はない。国民ID法が成立したことがあったが、人権侵害との批判が高まり、政権交代時に廃止された。

 こうした諸外国の事例と比べると、日本政府の暴走は突出している。初代デジタル相を務めた平井卓也は昨年10月にこんな暴言を吐いていた。「マイナンバーカードの活用の是非をいちいち国民に聞いて進めるものではない。反対があってもやり切ることが重要だ」

 こんな連中に個人情報を委ねたら、とんでもないことになる。健康保険証の廃止方針を撤回させ、カードの利用拡大政策もやめさせねばならない。  (M)

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