2023年07月14日 1780号

【日米韓核協議を公然化/米中距離核配備を自衛隊肩代わり/韓国ソソンリ 沖縄 ミサイル撤去の闘い重要】

 日本の敵基地攻撃能力。長距離射程ミサイルの保有と解説されているが、この先で待っているのは、中距離核ミサイル部隊の創設なのだ。プーチン大統領の核威嚇発言を契機に、「核兵器使用」の敷居がどんどん下がっている。「非核三原則」(持たず、つくらず、持ち込ませず)の放棄、「核共有」が大っぴらに主張され始めた。日米韓の軍事一体化がそれを促進している。

米核戦略見直し

 米国バイデン政権の核戦略は2022年10月に発表された「核戦力体制見直し」(NPR)だ。ウクライナへのロシア侵攻があった2月には、すでに出来上がっていたという。核戦略を専門とするブラッド・ロバーツ元米国防次官補代理(オバマ政権のNPR担当者)は、中国の核戦力の増強なども踏まえた見直しが必要と主張する(2/15読売)。ポイントは「アジアに核兵器が配備されていない核態勢は今日では不十分」「米国と日韓豪の間にはNATO(北大西洋条約機構)のような核使用の協議プロセスがない」の2点。

 中国の核戦力は中距離ミサイル(射程500〜5500`b)約2000発と推定されている。米国は、ソ連(当時)との中距離核戦力(INF)全廃条約(1987年)により、地上配備の中距離ミサイルを廃棄した。中国との「核格差」は大きい。「アジアに核兵器が配備されていない」とは、このことだ。

 19年、トランプ政権がINF全廃条約を破棄。続くバイデン政権は、日本列島から沖縄・台湾・フィリピンを結ぶ対中包囲「第一列島線」に中距離ミサイル配備を打ち出した(21年3月5日付日経)。ところが今年1月、米軍は在日米軍への地上発射型中距離ミサイル配備を見送ることにした。岸田政権が軍事3文書でミサイル部隊創設の方針を示したからだ。

 自衛隊のミサイルに核を搭載し、日米韓豪をコアにした核共有態勢をつくれば、アジア版NATOが出来上がる。ロバーツ元次官補代理が指摘した2つのポイントのカバーへ、バイデン政権はひとつずつ駒を進めている。


韓国も新「安保戦略」

 実際、米政府は「核の傘%米韓協議体創設」を打診していた(3/8読売)。

 かつて「朝鮮半島非核化」宣言(1992年)に合意したものの、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の「核の脅威」を受ける韓国は、尹錫悦(ユンソンニョル)政権になって、「核抑止」をより重要視した。

 4月に訪米した尹大統領は、バイデン大統領と「ワシントン宣言」を締結(4/26)。そこには、核搭載可能な原子力潜水艦(SSBN)の韓国派遣や核計画を議論する「米韓核協議グループ」(NCG)の新設などが盛り込まれた。

 訪米に先立ち3月に岸田文雄首相と会談した尹大統領をバイデン大統領は国賓として手厚くもてなした。徴用工問題をはじめ日韓関係改善を進めた点を「政治的な勇気に感謝したい」と評価。アジアへの核配備に大きく貢献する働きだったということだ。

 韓国は6月7日に刷新した「国家安保戦略」に「韓米軍事同盟は、核兵器を含め新しいパラダイムの軍事同盟へと深化」と記し、核協議グループ創設に合意したワシントン宣言を評価した。あわせて日本に対する表記を一変。「価値を共有する重要な隣人」とした。

 日米、米韓の軍事同盟がブリッジ的に3国を結びつけているが、ここにきて日韓軍事同盟への抵抗が減っている。韓国政府系のシンクタンク統一研究院の調査によれば対朝鮮、対中国のために「日韓軍事同盟を結ぶべき」に同意するとの回答は5割を超えた(6/5聯合ニュース)。

 その一方で、従来高い支持があった「独自核開発」は21年71・3%から、60・2%に下落した。「米軍核再配備」についても61・8%(21年)から53・6%へと低下している。

 尹政権の「核抑止」への前のめりの姿勢が、警戒感を生んだといえる。

「非核三原則」つぶし

 日本政府の動きはどうか。日米両政府は米中西部ミズーリ州にある米空軍基地で6月26日〜27日(現地時間)、「拡大抑止協議」(EDD)を開催した。「拡大抑止」とは「核による抑止力」を意味する。何を協議しているのか。防衛省の発表によれば「通常戦力及び米国の核能力を検討」し、「省庁間机上演習を実施」したという。米軍がどこで、どんな核兵器を使用するのか、どんな連携が必要かシミュレーションを行なっているということだ。

 EDDは最近始まったわけではない。2010年民主党政権下で設置されたが、詳細は伏せられてきた。今回初めて、防衛省は積極的に広報したのだ。核抑止とは核兵器使用が前提であることを隠そうともしなくなった。松野官房長官は「現実に核兵器が存在していることを踏まえれば、核抑止力を含む米国の拡大抑止は不可欠」(6/28記者会見)と述べた。

 「核抑止」をひけらかすようになったのは、プーチン大統領の核威嚇発言を契機にしていることは間違いない。NATOを引き合いに「核共有」とまで言いだした。朝鮮の核実験やミサイル発射実験も「脅威」の一つだが、松野長官が言う「現実に核兵器が存在し」は中国を念頭に置いていることは明らかだ。

 「核抑止」を完結するには、「非核三原則」放棄の主張が次に出てくる。折木良一元統合幕僚長は「緊急時に核搭載米艦船などの一時寄港を認める方針を決めれば、新たな核抑止力になる」と語っている(5/8朝日新聞GLOBE+)。

 尹大統領の訪日、訪米、岸田首相の訪韓、そしてG7広島サミット。半年足らずの間に、事態は大きく動いている。アジアへの核配備を許さないためにも、沖縄をはじめとする自衛隊ミサイル基地建設を阻止する闘いの重要性が一層増している。中国にむけられた韓国ソソンリのTHAAD(サード)ミサイル撤去の闘いに連帯する意義は大きい。

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 朝鮮戦争で米軍は核投下を考えた。さすがに思いとどまったものの、戦争の犠牲者は約600万人にのぼり、休戦協定後70年経った今も終結を見てない。尹政権は文在寅(ムンジェイン)前政権が掲げた「終戦宣言」と「平和協定」を国家安保戦略から削ってしまった。韓国、朝鮮、そして米国、ロシア、中国、日本の関係6か国に平和協定を締結させなければならない。

 韓国の平和団体を中心に、「朝鮮半島終戦平和キャンペーン」が取り組まれている。全世界に向け1億人の賛同を目標にする「朝鮮半島平和宣言」は「制裁と圧迫ではなく、対話と協力により葛藤を解決しよう」と呼びかけている。相手を威嚇する危険な「核抑止」など無用とする関係づくりを、市民の連帯でつくり出そう。核廃絶への大切な一歩だ。

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