2023年07月14日 1780号

【安倍元首相銃撃事件から1年/統一教会問題はうやむやか/政教分離を無視する政府・自民】

 安倍晋三元首相が銃撃され死亡してから1年になる。事件を機に、カルト教団・統一教会と自民党の癒着が明らかになり、岸田政権は釈明に追われた。だが、結局は上っ面の「絶縁宣言」で幕を引こうとしている。真相究明と責任追及をうやむやにしてはならない。

あの山際を公認へ

 死んで極右の守護神になるということか―。安倍元首相を祀る神社を長野県に建てる話が進んでいる。発起人の宮司によると、白樺の木を使った社殿を建設し、“安倍神像(あべしんぞう)”と称した銅像を祭神として安置するのだという(6/25デイリー新潮)。

 銃撃事件があった奈良市の霊苑には、自民党奈良県連の有志らが費用を拠出して、慰霊・顕彰碑が設置された。一般の「参拝」もできるという。こうした「安倍神格化」の一方で、政府・自民党は肝心なことに知らん顔を決め込んでいる。銃撃事件の背景にある統一教会の問題だ。

 昨年9月、岸田文雄首相は教団や関連団体との「関係断絶」を党の基本方針にすると明言した。党所属国会議員との関係を調査するとも約束した。しかし調査の実態は議員の自己申告にすぎず、嘘を書き放題というシロモノであった。

 しかも、統一教会との特別な関係が指摘されてきた安倍元首相への調査は行われなかった。安倍派の会長を務め、教団票を差配していたと言われる細田博之衆院議長についても「党籍から外れている」ことを理由に対象外とされた。

 「やってる感」を演出して時間を稼ぐ。そのうち世間は忘れるはず――というのが岸田政権の思惑だ。実際、先の統一地方選挙では、教団との「接点」を認めた議員の9割が、投票数は減らしたものの当選を果たしている(5/8朝日)。

 これならいけると判断したのか、自民党神奈川県連は、教団との関係が次々に発覚し閣僚を更迭された山際大志郎・前経済再生担当大臣を、次期衆院選の公認候補予定者に選んだ。反省ゼロ、市民をなめているとしか言いようがない。

事件を引き寄せた

 統一教会と自民党の関係は1960年代にさかのぼる。岸信介元首相(安倍元首相の祖父)が統一教会の政治組織である「国際勝共連合」の設立に尽力した。教団のマンパワーを日本における「反共の砦」として利用するためである。

 議員個人にとっても、教団や関連団体とのつながりは大きなメリットがあった。選挙協力である。ある自民党関係者は「教団の信者は、ボランティアで駅立ちもビラ配りもやってくれる。野党は労働組合がやってくれるけど、うちはいないから」と打ち明ける。

 第二次安倍政権の発足以降、統一教会と自民党中枢部は以前にもまして緊密な関係を築くようになる。ジャーナリストの鈴木エイトはこう解説する。「政権を奪取した安倍晋三は悲願である憲法改正の実現に向け、長期安定政権を目論んだ。そこで、組織票にとどまらず無尽蔵の人員を派遣≠オてくれる使い勝手の良い教団を利用しない手はなかったのだろう」

 では、統一教会側のメリットは何か。まずは自民党議員を教団の布教活動を助ける広告塔として使うことである。そして取り締まり対策だ。霊感商法や高額献金といった違法な集金活動を続けるためには、警察の動きを抑える「政治の力」が必要だった。

 こうして統一教会による人権侵害は事実上野放しにされてきた。教団は信者の心を信仰によって呪縛し、人格を変え、違法な活動に動員し、財産も人生も奪い尽くした。安倍元首相を銃撃した山上徹也被告の母親もその一人だった。

 山上被告は生涯を台無しにされた恨みから、教団に強い復讐心を抱いていた。その矛先を「現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人」とみなした安倍元首相に向けたと言われる。彼自身が党利党略のためにカルト教団を利用し、庇護してきたことが事件を引き寄せたのだ。

今も宗教を利用

 統一教会とズブズブの関係を続けてきたことがあだとなり、自民党は安倍晋三というリーダーを失った。まともな政党ならば、癒着の実態を過去にさかのぼって明らかにした上で教団と手を切り、被害者の救済に尽力するのが筋である。

 しかし自民党及び岸田政権にはまったくやる気がない。今なお宗教右派をバックに持つ勢力(日本会議など)と手を結び、改憲推進や草の根保守活動(人権攻撃)の役割を担わせている。統一教会との関係を続けている議員もいる。

 要するに、政教分離という近代国家の大原則を無視しているのだ。民主主義が民主主義として機能するための基本ルールをわきまえない連中に政権を握らせていてはならない。 (M)

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