2023年07月14日 1780号

【読書室/日本は本当に戦争に備えるのですか? 虚構の「有事」と真のリスク/岡野八代 志田陽子 布施祐仁 三牧聖子 望月衣塑子共著/大月書店 1500円(税込1650円)/岸田軍拡こそ戦争を招く】

 「安保三文書」の改訂で敵基地攻撃能力保有を明記し大軍拡への「歴史的転換」を表明した岸田政権に対し、「本当に戦争に備えるのか?」と疑問と批判を投げかけたのが本書だ。

 ジャーナリストの布施祐仁は、「台湾有事」切迫論は虚構であると断じた。米中台にも武力衝突回避への外交があるが、日本は突出して南西諸島の自衛隊配備で軍事緊張をあおる。「台湾有事」の可能性があるとすれば、偶発的な衝突の場合であり、危険性を高めているのは日本の軍拡なのだ。

 新聞記者の望月衣塑子は、メディアが中国への「軍事的対抗」を積極的に支持または容認し、問題点を財源のみに矮小化していると指摘。外交努力による平和構築の必要性などを主張するメディアが極めて少ないことに危機感を表明する。

 アメリカ外交史が専門の三牧聖子は、米国でも、軍拡政策をリードする外交官に対し、「彼らは政府や軍需産業と結託し、際限のない軍事介入へとアメリカを引き込んできた」と批判が高まっていると指摘。「大量破壊兵器を製造することより、むしろ国民生活の向上こそが最大の安全保障」と主張するサンダースらの訴えが米国社会で支持を広げていることを紹介する。

 憲法学者の志田陽子は安保三文書の作成過程が立憲主義、民主主義を否定するものと論じた上で、国民生活を破壊してまでも軍事費を増大させることは、国民の安全保障という観点から本末転倒だと述べる。

 そうした一連の主張を、政治思想史の岡野八代が個人なき「安全保障」ではなく個人の尊厳・ケアを中心とした政治への転換こそ今問われている(終章)と本書をまとめている。(N)
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