2023年07月21日 1781号

【NATO首脳会議と戦争ビジネス/対中国 ウクライナ ともに足並み揃わず/即時停戦 殺人・破壊で儲けるな】

 7月11日〜12日のNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に域外から日本、韓国などが参加。対中露冷戦構造をアピールするためだ。軍事緊張を煽るのは軍需産業の市場を拡大することでもある。ウクライナ戦争をビジネスチャンスとする勢力は、戦争が長引くことを望んでいる。「直ちに停戦、和平交渉を」の声を全世界からあげよう(7/11記)。

日韓首脳も参加

 リトアニアで開催されるNATO首脳会議には、域外から日本をはじめ韓国、オーストラリア、ニュージーランドの政府首脳が参加する。

 米政府は、岸田文雄首相の参加を「インド太平洋と大西洋という二つの地域を一つの戦略圏にまとめ上げた」(7/7エマニュエル駐日米大使)と称賛。対中露軍事同盟の構図を鮮明にしたいのだ。だが、東京へのNATO連絡事務所開設には、中国を刺激したくないフランス政府が反対するなど、足並みが揃っているわけではない。米日主導の対中包囲政策への不和は存在している。

 ウクライナについてはどうか。ウクライナ支援の協議体を「委員会」から「理事会」に格上げするものの、NATO加盟については「将来」と先送りのまま。ウクライナが加盟すれば、NATOが戦争当時者となることを意味する。欧州全体が戦場となる可能性すら想定しなければならない。バイデン米大統領は「NATO内に加盟の是非について一致した見解はない」と語っている(7/7CNN)。加盟31か国は一枚岩ではない。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、6月初め極秘に来訪した米中央情報局(CIA)長官に1991年の国境確保が停戦交渉の出発点との考えを伝えた。つまりクリミア奪還まで戦闘をやめないということだ。この姿勢へのコメントはないが、バイデン政権はウクライナに「クラスター爆弾」供与を発表した(7/7)。非人道的兵器として製造、使用が禁止されたものだ(10年発効のオスロ条約)。条約非加盟国であっても兵器の非人道性にかわりはない。英国は劣化ウラン弾を提供している。

 軍事産業を抱える各国政府は、とにかく「負けないように」支援し続けることでは一致している。


韓国倍々ゲーム

 軍需産業の伸長著しいのが招待国、韓国だ。武器輸出は21年までの5年間は、その前5年間との比171%、世界シェアは英国に次ぐ第8位になっている。韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は、半導体などの輸出が低迷する中で「防衛産業を経済成長をけん引する戦略産業として育成する」と述べ、米露仏に次ぐ第4位を狙う(22年11月24日ロイター)。

 韓国の軍需産業はウクライナ戦争で大儲けした。21年に72・5億ドル(約1兆円)に急増した武器輸出は、22年にはさらに170億ドルと倍増している。ウクライナ支援に熱心なポーランドとは戦車980両、自走砲648門、戦闘機48機など、総額137億ドルの基本協定を結んでいる(22年7月28日朝鮮日報)。

 ポーランドは、自国のドイツ製戦車「レオパルト2」や戦闘機ミグ29を率先してウクライナに提供した。その後がまを韓国製兵器が占める。ポーランドがいわばセールス役になり、韓国製兵器取引はNATO8か国に広がり、NATO内のシェアは第3位になっている。

 トップセールスを行う韓国にとってはNATO首脳会議参加は、欧州への武器セールスの絶好の機会だ。尹大統領、ウクライナとともにポーランドを訪問し、ドゥダ大統領と軍事産業の協力強化を話し合う。

 「安くて高性能、仕様変更も柔軟に納期も早い」を売りにする韓国製武器の「躍進」を悔しがっているのが日本政府だ。軍事3文書で方針を掲げ、軍需産業育成法を成立させた。今、武器輸出3原則の撤廃に向けた動きを強めている。「防衛装備移転三原則」と運用指針の見直しにむけた与党ワーキングチーム(WT)が「論点整理」の報告書を提出した(7/5)。WTの役割は「殺傷能力のある装備品」輸出に対する抵抗感を薄めることだ。ウクライナを念頭に「侵略を受けた国」を加えること、日英伊で共同開発する次期戦闘機の第3国への販売を認めることなどを示した。

 人殺しと破壊のための武器製造会社に経済を依存する危うさが際立っている。


「ワグネル反乱」

 NATO首脳会談は、6月末に起きた「ワグネル反乱」後のロシア情勢や戦況について意思統一する。世界で報じられたワグネル。戦争請負会社が注目を集めるのはイラク戦争時の米ブラックウォーター以来だ。戦争請負会社が発注者に銃を向ける事態は、戦争の本質を表している。

 税金で、殺人と破壊を請け負わせるこの仕組みは、戦争の民営化≠ニ言うにとどまらず、戦争とは政治権力者が自らの利益≠フために行うものであることを示しているからだ。

 ワグネルは、14年に始まるウクライナ東部ドンバス地方での戦闘に投入された。ロシアに編入する以前であったため、正規軍に代わる戦闘部隊として民間戦争請負会社がつくられた。今ウクライナ東部4州は「ロシアに編入」したことから正規軍で闘える理屈ができた。ロシア軍幹部は、正規軍に吸収するよう要請。ワグネルがロシア軍幹部を「戦術的無能」と非難を始めた背景だ。国営テレビが報じたワグネルに支払われた額約1兆7千億ルーブル(約2兆8千億円)(7/3日経)はあまりに巨額だ。

 ロシア政府にとっては、財政的にも正規軍化は必要だった。「ワグネルの反乱」はいわば、契約の維持と保障を求めたストライキ≠ニ言える。「混乱」によってもプーチン体制は揺るがなかった。事前に情報を得ていた米国政府も、この機を利用することはなかった。泥沼の戦争を続ける政策を変えることはないからだ。

   * * *

 米政府がウクライナ支援に投入した税金は62億ドルに上方修正された(6/21ロイター)。だが、その内訳が明らかにされず、この額にとどまるのかは不明だ。

 米ネット誌「THEGRAYZONE」は、武器弾薬だけでなく、ウクライナを冠したあやしい支出があると指摘する(6/27)。例えば、米国国際開発庁(USAID)がウクライナ国債の返済分45億ドルを支払っているという。ウクライナ国債の最大の保有者は世界最大の資産運用会社ブラックロック社(本社ニューヨーク市)などだ。ウクライナ支援は金融機関への「返済」だったということだ。

 戦争により利益を受ける者は軍需産業にとどまらない。人の命を儲けに変えるグローバル資本主義を怒りをもって変革しよう。

 9月30日〜10月8日は「今こそ停戦、交渉」を求めるグローバル行動週間だ。岸田政権の戦争遂行政策に反撃する闘いをつくり、これに合流しよう。ロシアでもウクライナでも、市民の誰も戦争を望んではいない。
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