2023年07月21日 1781号

【福島原発放射能汚染水放出強行にノー/実害生み 自然環境は戻らない】

 政府が予定している福島原発からの汚染水海洋投棄が目前に迫った。岸田政権に追随するメディアは準備の進展状況ばかり報じ、事態の本質に踏み込まない。だがこのまま放出が強行されれば未来世代にまで回復不能な影響が及ぶ。

「風評」にあらず

 汚染水に含まれる放射性物質のうち、原発推進勢力はトリチウムだけを強調しているが、汚染水にはストロンチウムや炭素14など、人体に重大な影響を与える放射性物質が依然として残る。東京電力はこうした放射性物質を「基準値以下に収めた」と盛んに宣伝しているが、除去できずに残ることに変わりはない。

 放射性物質は薄めれば問題ないという原発推進勢力の主張も誤りだ。薄めることによって減らせるのは1g当たりなど「単位体積」当たりの数量だけだ。完全に除去しない限りどれだけ薄めても総量が減ることはなく、当然のこととして流せば流すほど増え続ける。

 トリチウムは水と性質が似ているため、体内に入るとあらゆる細胞に入り込む。遺伝子の中にも侵入する。トリチウムからの放射線が遺伝情報の塊であるDNAを損傷させることにもなる。

 国立機関にさえトリチウムの健康被害を認める論文がある。妊娠12・5日のマウスに被ばく量0・1グレイ(=100ミリシーベルト)相当のトリチウム水を投与したところ、子マウスに行動異常が観察され、脳の発達に影響を与えた(「トリチウムの生体への影響と低線量放射線影響研究の課題」国立保健医療科学院、2021年)。

 トリチウムは約12年で半減するが、政府・東電が計画する30年間もの長期放出が現実になれば、トリチウムの蓄積量は膨大になる。問われているのは健康被害だ。「風評」ではなく実害なのだ。

事実ねじ曲げ放出

 原発推進勢力は福島原発敷地内にある汚染水タンクの容量がひっ迫しているとして放出を急ぐ。だが、実際は海洋放出が最も安上がりな「解決」方法であるからに他ならない。政府・東電の背後にいる「応援団」は放出実現という目的のためなら手段を選ばず、事実すらねじ曲げる。

 音喜多駿参院議員(維新)は、21年4月の資源エネルギーに関する調査会で、ALPS処理水が外国の原発から出されるトリチウム水と同じだと認めるよう、更田(ふけた)豊志原子力規制委員長(当時)に執拗に迫った。さすがの更田も「(放出予定の処理水は)事故を起こしていない炉が放出しているものと同じものではない」として否定したが、それでも音喜多は「科学的な安全性という点では各国が流しているものと相違はない」などと事実にも科学にも反する妄想の受け入れを迫り、トリチウム汚染水の危険性を訴える主張を「差別的表現」「風評被害を広げる根本原因」などと一方的に攻撃した。

 1円でも安く原発を運営できれば事実も安全もどうでもいい―原発推進勢力の醜悪な正体だ。

IAEAは中立か

 7月4日、IAEA(国際原子力機関)は、東電の海洋放出計画は「国際的な安全基準に合致」し、海洋放出が与える影響は「無視できるほどごくわずか」とする報告書を岸田首相に手渡した。岸田政権はこれを根拠に早ければ7月中にも放出に踏み切る構えだ。

 だがIAEAは中立≠ネのか。そもそもIAEAは、使命として「原子力の平和利用推進」をうたう。原発推進を妨げるものを排除するための国際組織だ。

 IAEAには世界176か国が加盟するが、日本だけで資金の10%以上を拠出している。23年度予算でもその拠出額は複数の省庁で75億円を超える。「日本はIAEAを買収した」とする韓国メディアの報道に対し日本政府は猛抗議したが、この実態を見れば指摘はむしろ当然だ。

 南太平洋諸国で構成する「太平洋諸島フォーラム」は放出に「強い懸念」を表明。中国、韓国も相次いで反対を表明している。福島県や全国の漁業者団体や市民も反対の声を上げる。原子力ムラ、原子力マフィア以外のすべての市民にとって被害だけの野蛮な汚染水放出を許してはならない。



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