2023年07月21日 1781号

【マイナンバーカードなぜ「強制」/超絶監視社会へのパスポート/拒絶は岸田政権に大打撃】

 マイナンバーカードをめぐる大混乱が続いている。あまりにずさんな政府の対応に批判が集中するのは当然だが、根本的な問題を忘れてはならない。巨額の費用を投じてまで、人びとにマイナンバーカードを持たせ、使わせようとしているのはどうしてなのか。

河野デジ相の傲慢

 マイナンバーカードの名称見直しに言及した河野太郎デジタル相の発言が物議を醸している。NHKの討論番組では「次の更新でマイナンバーカードという名前をやめた方がいいのではないか」と述べた(7/2)。マイナンバー制度とカードを混同する人が多く、その誤解が不信につながっているからだという。

 7月5日に行われた衆院特別委員会の閉会中審査では「カードを自主返納することで、ひもづけの誤りが解決するわけではない」と答弁。トラブルとカードの保有の有無は関係ないとの見解をくり返した。

 一連の河野発言からは「制度の仕組みを理解していない連中が騒いでいる」という本音が透けて見える。こういう傲慢な発想だから、多くの人びとが政府への不信感を募らせていることが分らないのだろう。

 もっとも、マイナンバー制度について正確な知識を持つ人が少ないのは事実である。もちろん意図的に周知してこなかった政府の責任だ。そこで議論の土台となる基礎知識を押さえておきたい。政府がなぜマイナンバーカードの普及をゴリ押しするのか、見えてくるはずだ(以下の解説は、黒田充著『何が問題か マイナンバーカードで健康保険証廃止』を参考にした)。

保険証利用の仕組み

 マイナンバーは住民票のある日本国民と中長期在留者や特別永住者などの在留外国人に付番された12桁の番号で、複数の行政機関などが保有する個人情報を同一人のものであることを確認するために使う。マイナンバーカードは自分のマイナンバーはこれだと証明するためのもので、希望した者に交付される。

 マイナンバーカードのICチップには公的個人認証に使う電子証明書(発行は希望による)の発行番号が記録されている。この発行番号を本人の被保険者番号と紐付けることで、カードを健康保険証として使うことが可能になる。

 具体的な話をすると、マイナンバーと発行番号はカードの交付時に紐付けられる。マイナンバーと被保険者番号は健康保険組合などの保険者によって従前より紐付けられている。つまりマイナンバーを介することによって発行番号と被保険者番号は結びつけることができる、というわけだ。

 政府はマイナンバーカードの電子証明書が持つ本人確認・認証機能を「デジタル社会の基盤」として徹底的に利活用するとうたっている。運転免許証を始めとする各種免許・資格確認証との一体化がそうだ。公的分野だけではない。民間事業者にも積極的な利用を促している。

 健康保険証の廃止は「マイナンバーカードがないと何もできない社会」への最初の一歩といえる。

返納は「無意味」か

 さて、総額2兆円を投入したマイナポイント事業の目的はカードの普及だけではない。マイナポイントはキャッシュレス決済サービスと紐付けないと受け取れない。つまり、キャッシュレス決済の利用拡大政策でもあるのである。

 キャッシュレス決済なら購買履歴の把握が容易にできる。行政機関が持つ個人情報と購買履歴の連結。それは生活全般に渡る個人情報を巨大企業や国家が把握することを意味している。企業は儲けの種を、国家は国民監視・統制の手段を手に入れるということだ。

 公金受取口座をマイナンバーと紐付けて登録させる狙いは言うまでもない。個人の金融資産を把握するためである。内閣府や総務省の資料が明記しているように、マイナンバーの本来の役割は「所得把握の精度を向上」させることにある。

 もうおわかりだろう。政府はなぜマイナンバーカードの取得を強要し、使わせようとしているのか。個人情報を吸い上げるためである。「マイナンバーカードはデジタル社会のパスポート」(岸田文雄首相)とはそういうことなのだ。行き着く先は、プライバシーを丸裸にするデジタル監視国家にほかならない。

  *  *  *

 マイナンバーカードの自主返納について「意味がない。マイナンバーは消えないし、利便性を失うだけ」と揶揄する御用文化人がいる(たとえば辛坊治郎)。しかし多くの人がカードを拒絶することは、カードの利用を通じた個人情報の吸い上げができなくなることを意味している。

 「マイナンバーカードは要らない。健康保険証を廃止するな」の声の広がりは、岸田政権を確実に追い詰めているのである。 (M)

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