2023年07月21日 1781号

【読書室/堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法/堤未果著 幻冬舎新書 940円(税込1034円)/惨事につけ入る新自由主義政策】

 ショック・ドクトリンとは、カナダ人ジャーナリストのナオミ・クラインが命名した新自由主義政策推進の手口である。テロや戦争、大災害などで国民がパニック状態(=思考停止)にある隙をついて、通常なら拒絶されるはずの政策(規制緩和、民営化、社会保障の切り捨てなど)を一気に推し進める手法を指す。

 今の日本でもショック・ドクトリンが進行中だと著者は言う。たとえば「デジタル改革」である(第1章)。コロナ禍における公的給付金の支給に遅れが生じたことを口実に、政府はマイナンバーカードの活用を推奨している。健康保険証の廃止方針も、市民を脅し不安にさせるショック政策の一種である。

 だが、個人情報がすべて紐づけられた先にあるものに、著者は警鐘を鳴らす。それは「全国民の金融資産を完全に把握すること」であり「国民の思想と行動を把握する」ことである。この2つの合わせ技というべき事件がカナダで起きた。

 コロナ対策で政府が導入したワクチンパスの義務化に反対するトラック運転手の抗議行動に業を煮やしたトルドー首相は、トラック運転手と彼らを支援した一般市民の銀行口座を凍結したのである。

 政府がその気になれば、デモに参加した個人やその口座まで特定可能―。個人データが丸ごと管理されるデジタル監視社会の恐ろしさを世界に示した事件だったと著者は言う。

 第2章ではコロナ対策、第3章では脱炭素を口実としたショック・ドクトリンの手口が紹介されている。筆が少々すべり気味なところもあるが、記述は大変わかりやすい。入門書として最適の一冊だ。  (O)
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