2023年07月28日 1782号

【DSAニックのアメリカレポート トランス差別を許せばすべての権利が脅かされる】

 6月はプライド月間≠セ。世界中でLGBTQの人々がその権利と文化を支持するプライド月間を祝福した。全米の都市でプライドパレードが行われ、あらゆるところにレインボーフラッグが飾られた。

 

プライド月間に攻撃

 一方、右翼によるLGBTQの人々への攻撃は日々増している。特に今、トランスジェンダーの人権や身の安全が脅かされている。私たちは、トランスジェンダー差別に反対していかなければならない。

 トランスジェンダーとは、LGBTQの「T」の部分。出産時に割り当てられた性別と、性自認が異なる人を意味する。トランスの人々の中には、トランス男性やトランス女性もいれば、ジェンダー・アイデンティティが男性と女性の間の人、どちらでもない人、流動的な人など、様々な性自認がある。私自身も、出産時に割り当てられた「男性」という性別に違和感を抱いており、性自認は男性でも女性でもない。なので、私は男性を指す英語の代名詞「he/him/his」だけではなく、ジェンダーを問わない代名詞「they/them/theirs」も使っている。

 私が住んでいる、米北西部ワシントン州スノホミッシュ郡でも、プライド月間中の6月17日、トランス差別を扇動する集会が行われた。主催団体は、「ソブリン・ウーメン・スピーク」という宗教的極右団体。集会には、白人至上主義武装集団「III(スリー)%」なども呼ばれ、共和党の市会議員と州議会議員も参加していた。共和党の極右化の証だ。

 集会が行われたのは「オリンパス・スパ」というスパ店前だ。その背景には、差別を受けた一人のトランス女性の行動があった。

 2020年、「オリンパス・スパ」を訪れたトランス女性が、女性専用スパへの入場を断られた。彼女は、店の差別をワシントン州人権委員会に報告し、委員会は「性自認を元にする差別は州の法律に反する」と判断した。これを不服として、店主は「発言・宗教の自由の権利に反する」と連邦裁判所で民事訴訟を行ったが、判事は「権利に反しない」と判断。店側弁護士はLGBTQヘイト団体に所属していると報じられた。この件は、一部の右翼ネットメディアに広く取り上げられた。

 差別を受けたトランス女性は「この1件のせいで脅迫も受け始めた」とも発言している。差別集会は、「オリンパス・スパ」の前でトランス差別をあおる目的で予定されていた。

差別集会許さない

 私が差別集会について知ったのは、その数日前。DSAシアトル支部が、ツイッターで集会に反対するカウンター行動を告知していた。反対行動の主催にDSAは直接関わっておらず、SNS上で自発的に広まった。告知には、「トランス反ファシスト行動!クィア(注)若者を支持し、ファシストに反対するために集まれ!トランスの権利は人権だ!」などと書かれていた。自分の住む地域に、トランスを差別せよと訴えるファシストが集まると知り、私は反対集会に向かった。

 当日、「オリンパス・スパ」の周りは数十人の地元警察やパトカーによって警備されていた。店前に集まっていた右翼勢力は20〜30人で、ほとんどが白人。武装している者は見当たらなかったが、軍服を着て、暴動鎮圧用盾を持った男が1人、演壇の隣に立っていた。

 反対行動に集まったのは30〜40人。右翼と私たちの間には、警察が並び、境界線を作っていた。反対行動の最前線に立っていた人は、差別集会の方向に傘を広げて持っていた。



 傘を持つ意図は二つある。一つ目は、差別集会の様子を通行人や車から見えなくするためだ。彼らの発言は差別的で、トランスの人々の存在そのものを否定するものだ。傘を使って見えなくすることで、彼らの発言や思想の広がりをできるだけ抑えることが目的だ。

 二つ目の理由は、反対行動参加者の身の安全のためだ。反対行動にはトランスの参加者も多く、暴力の対象になる可能性もある。差別者たちから、なるべく反対行動参加者の顔などを見えなくする必要がある(反対行動参加者のほとんどは、マスクをし、顔がわからないようにした)。

 このような反対行動には危険な要素もあるが、行動は楽しかった。差別集会から演説が聞こえるたびに、私たちは大きな声でシュプレヒコールをし、できるだけ集会の邪魔をした。

 「トランスの権利は人権だ!」「トランスの権利が攻撃されたらどうする?立ち上がって闘う!」「トランス女性は女性だ!」「ファシスト帰れ!」「ファシスト クソ食らえ!」。声が枯れるほどシュプレヒコールを繰り返す。

 多くの参加者はトランス・プライド旗やポスターを持参し、それを見た通りすがりの車からは応援のクラクションも多かった。

 (注)クィアはLGBTQの「Q」、他のどれにも当てはまらないなどの性的マイノリティをさす

みなが自分でいられる

 差別集会は、予定されていた3時間より30分早く終わった。差別者たちの多くは、貸切バスに乗車して帰った。多くはスノホミッシュ郡の外から来たのだと思われる。私たちは、全員が帰るまで残り、声を出し続け、最後の差別者がいなくなると、歓声が広がった。

 差別集会の主催者からすると、今回の集会は失敗に終わったと考えられる。しかし、トランス差別をあおり、その人々の存在を否定する発言を公の場所で行うこと自体が、とても危険なことだ。差別的な思想を持つ団体が平然と集まれる環境を作ってはいけない。反対集会の意図はそこにある。

 アメリカがより多様な社会となっていく中、それに反対する差別的な思想も広がっている。しかし、差別思想は決して許されない。そして、差別思想を持つ団体が私たちの地域で集会を行うなら、私たちは立ち向かわなければならない。

 すべてのトランスの人々が、ありのままの自分でいられる社会を築き、保つためには、その存在を否定する思想と闘わなければならないのだ。トランスの人々の権利が脅かされる社会は、私たちすべての権利が脅かされる社会だ。
 DSA(アメリカ民主主義的社会主義者)は、全米最大の社会主義団体で地域、職場から米国社会に変革のうねりをつくりだそうとしている。筆者ニック・ワトキンスさん(28歳)は、米北西部在住のDSAメンバーで、同国際委員会でもZHAP(ZENKO辺野古反基地プロジェクト)運動の前進に力を尽くしている。



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