2023年07月28日 1782号

【マイナンバーカード強制作戦/保険証の次は運転免許証/隠された監視と管理の目的】

 今やトラブル製造器と化した観のあるマイナンバーカード。健康保険証の廃止には無理があると誰もが思っている。それでも岸田政権は、マイナンバーカードを拡大し、強制しようとしている。運転免許証との一体化も来年度末までに進めるという。何のために。

使われていない現実

 マイナンバーカードはほとんど使われず、棚ざらし状態―。そうした実態が明らかになった。

 これはモバイル専門の調査会社であるMMD研究所の調べ(6/22〜6/26実施)で分かったもの。マイナンバーカードを取得した人に使用用途を聞いたところ(複数回答)、圧倒的1位は「マイナポイントの申請」53%だった。「本人確認書類に使用」は26%で、「住民票など各種証明書をコンビニで取得」は25%。「一切利用していない」という人が24・5%もいた。

 ポイント目当てに作ってはみたが、生活が便利になるわけでもなく、今後使うあてもない―。多くの人びとがこのように感じていることがわかる。

 こうなることは政府もある程度予測していたと思われる。だから、マイナンバーカードを使用しなければならないような状況を作り出し、持っていない人に取得を促す強硬手段に打って出た。現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、マイナンバーカードに一体化するとの法改定は、その第一弾であった。

 この「マイナ保険証」政策は大混乱を引き起こした。それでも政府は強引なカード普及策をやめるつもりはない。健康保険証に続く一体化のターゲット。それは運転免許証である。

唯一の身分証に

 昨年4月、道路交通法が改定され、本人の申請により運転免証証の機能をマイナンバーカードに持たせることが可能になった。導入時期は2024年度末とされてきたが、河野太郎デジタル相は「前倒しできないか、検討を警察庁と一緒に進める」としている。

 一体化の方式は健康保険証とは異なり、運転免許の情報(交付年月日、有効期間、免許の種類・番号、本籍、顔写真など)をマイナンバーカードのICチップに記録する方式をとる。通信エラーによるトラブルを回避するためだろう。

 谷公一国家公安委員長は、現行の運転免許証の廃止は「検討していない」と発言。「そこが健康保険証の扱いとの違いになる」とも述べている。「それなら別にいいや」と安心してはいけない。運転免許証を身分証明に使えないようにする動きがあるからだ。

 6月9日、政府はマイナンバーカードの用途拡大を柱とするデジタル施策の重点計画を閣議決定した。その中に、オンラインでの銀行口座の開設や携帯電話を契約する際、本人確認の手段をマイナンバーカードに一本化するという項目がある。運転免許証や顔写真のない書類での確認は「廃止する」というのだ。

 同様の動きはすでに健康保険証で起きている。KDDI、NTTドコモ、ソフトバンクなどの通信大手は、契約時の本人確認書類から健康保険証を除外した。運転免許証もいずれそうなる可能性が高い。

 マイナンバーカードが唯一の本人確認(身分証明)手段ということになれば、社会生活を送る上で持たざるを得なくなる。取得強要の手法としては、ある意味、健康保険証の廃止以上に悪質といえる。

監視社会のパスポート

 前述の重点計画は、マイナンバーカードの「市民カード」化を推進するとうたっている。その実態は半強制的な誘導策だ。たとえば国立大に対し、マイナンバーカードの利用実績に応じて、交付金を配分する施策である。出欠確認や図書館利用にマイナンバーカードを使う大学が増えているのはこのためだ。

 こうして政府は、マイナンバー(個人番号)を証明する書類であるはずのマイナンバーカードを「国民身分証」に化けさせようとしている。市民カード化とはそういうことだ。カードをチェックするだけで、当該人物の様々な個人情報、免許や資格、行動履歴などを即座に引っ張り出せるようにしたいのである。

 ジャーナリストの小笠原みどりは「国民身分証というものは歴史的に、警察などが人びとを呼び止め、どこの誰か、行先や目的を尋ね、動きを知るため、人びとを排除するため、または動員するために使われてきた」と指摘する。

 マイナンバーカードの強制には、こうした監視と管理の目的が隠れている(個人情報のビジネス利用という観点は別の機会に述べたい)。岸田文雄首相は「マイナンバーカードはデジタル社会のパスポート」などと称しているが、読み替える必要がある。本当は中国ばりの監視社会へのパスポートなのだ、と。(M)

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