2023年08月04日 1783号

【非核兵器地帯条約へロシア中国参加か/東南アジアに続き北東アジアにも非核地帯を/核廃絶 軍事同盟解体へ】

 ウクライナ戦争により、「核抑止力」が公然と語られるようになった。マスコミは核兵器使用を前提とする議論に警戒心さえ示さない。そんな中で、ロシア、中国があいついで東南アジア非核兵器地帯条約に署名する意志を表明した。時代は、核兵器禁止条約が発効し、核廃絶への道が示されている。核軍縮・核廃絶は、すべての軍備縮小、廃棄への道でもある。

核先制攻撃の暴言

 非核兵器地帯(NWFZ)条約とは、特定の地域の国は核兵器の開発や配備をせず、地域外の核保有国には核攻撃をしないことを求めるもので、これに賛同する国が条約を締結する。この地域では「核抑止力」は無意味となり、「核共有」など論外となる。

 この条約は現在5つの地域で実現している。東南アジア(バンコク条約)の他アフリカ(ぺリンダバ条約)や中南米(トラテロルコ条約)等だ。空白地域の一つは欧州であり、ウクライナ戦争は「核使用」を最も現実に近づけてしまっている。その状況をまず確認しておきたい。

 NATO(北大西洋条約機構)は昨年9月、マドリード首脳会談で「新戦略概念2022」を採択。「不戦の核同盟」から「闘う核同盟」への脱皮宣言だと報じられた(22年9月6日エコノミスト)。たとえば、米英仏の核戦力に加え、米軍の戦術核ミサイルB61―12を100発、ベルギーやドイツ、トルコなどの戦闘機に搭載することをさす。

 プーチン大統領は、NATOの核ミサイル配備に対抗し「核威嚇」発言を繰り返した。「われわれを核兵器で脅迫しようとする人びとは風向きが変わって、自分たちが同じ目に遭う可能性があると知るべきだ」(22年9月30日ロイター)。23年6月には、ベラルーシに戦術核を配備した。

 NATOは「核兵器使用は、ロシアに『前例のない結果』もたらす」(22年10月)と応戦し、バイデン大統領は「核のアルマゲドン(世界最終戦争)≠フ危険性が過去60年間で最も高まっている」(22年10月)と挑発的に危機感を煽った。しかもゼレンスキー大統領はロシアの核基地への先制攻撃さえ主張している。「ロシアによる核兵器使用の可能性を排除するのだ。予防攻撃を行って、彼らが行使するとどうなるか、先にわからせるのだ」(22年10月7日SPUTNIK)。核兵器の使用方法を見直せとも言っている。「抑止力」ではなく先制力≠ノせよということだ。

 敵の「脅威」を上回る「威嚇(いかく)」によって「抑止」しようという「にらみ合い」はエスカレートし、先制攻撃さえ正当化する。最後の一線を越えない保証はない。

ASEANから朝鮮半島

 「抑止」ではなく「外交」で安全を保障する以外に選択肢はない。欧州が危険な状況にあるなかで、ロシアや中国がASEAN(東南アジア諸国連合)の呼びかけに応じ非核兵器地帯条約への署名の意向を表明した。

 7月11〜15日にインドネシアで開催されたASEAN外相会議。参加したロシアのラブロフ外相は「すべての核保有国が履行するなら、共に署名する用意がある」と記者団に語った(7/13共同)。

 ASEANは1995年に非核兵器地帯条約を発効させて以来、これまで米英仏中露の核保有5か国に非核兵器地帯条約への署名を求めてきたが、どこも応じなかった。今年の議長国、インドネシアのルトノ外相は「地域に核兵器があるようでは、真に安全にはならない」と訴えた(7/11)。今回のロシアの表明は、条件付きながら前向きなものと受け止められている。続く14日には、中国が署名への意欲を表明した。

 日本では「核抑止」一辺倒の論調が続く中で、「核脅威の根源」とされるロシア、中国が「非核兵器地帯条約」に加わる意味は極めて大きい。



 この条約が全世界すべての地域を覆うようになれば、核兵器は不要となる。もう一つの空白地帯、朝鮮半島だ。

 朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)や中国を念頭に「核抑止力」を正当化する日本政府に口実を与えないために、「北東アジア非核地帯構想」が提起されている(21年1月23日東京新聞)。朝鮮・韓国と日本を域内国とし、米中ロを近隣核兵器国として、朝鮮半島の非核化をめざそうというものだ。朝鮮戦争終戦、平和協定の対象国でもある。終戦、非核化は決して困難なことではないはずだ。

逆行する日米韓

 こうした動きに逆行するのが、日米韓3国による核配備への協議だ。7月20日、3か国の朝鮮問題担当局長級会議を長野県で開催し、日米、米韓の軍事同盟を3か国一体の軍事同盟として強化することを協議した。8月には米国で首脳会談を予定している。

 軍事同盟が「核の傘」に根拠を与えているのは間違いない。今も存在する軍事同盟は、米国を中心としたものが6つある。NATO,日米同盟も含めほとんどが1950年前後に結ばれた。米ソ冷戦時代の産物だ。ソ連崩壊とともにその役割を終えるべきものだった。

 だが、新たに21年、AUKUS(豪英米同盟)が結ばれた。英豪間には軍事取り決めがあったが、オーストラリアへ米軍が核配備を行うために3国同盟をつくった。新たな冷戦、対中国包囲網の一環だ。

 対する中国は61年に朝鮮と結んだ中朝友好協力相互援助条約(61年)がある。ロシアは92年の旧ソ連邦構成国(23年現在はアルメニア、ベラルーシ等5か国)と結んだ集団安全保障条約がある。

 新たな冷戦構造のなかで「核の傘」への依存が正当化され、軍事同盟の強化の動きが活発化している。全世界が非核兵器地帯となれば、軍事同盟は有名無実化していく。



   *  *  *

 「核廃絶がライフワーク」と語る岸田首相は昨年8月、広島、長崎の平和記念式典で核兵器禁止条約に言及せず、非難を浴びた。今年も同じことを繰り返すだろう。広島での開催にこだわったG7サミットでは「核抑止」を正当化しているからだ。

 岸田首相は「条約は核兵器のない世界の出口。同盟国の米国を変えるところから始めなければならない」と逃げている。「核保有国と非核保有国の橋渡し役」と語る岸田首相だが、いまや「米国を変える」のではなく、日本の非核三原則を変えようとしている。「橋渡し」とは北東アジアへ核配備をする役割だった。

 北東アジアにこそ非核兵器地帯を。「中、露、朝は信用できない」との否定論がでてきそうだが、そうとするなら、相互信頼を築く外交努力を最優先で行うべきではないか。
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