2023年08月04日 1783号

【大阪・関西万博ベタ遅れ/維新吉村、隠していたか/カジノのための万博は要らない】

 2025年大阪・関西万博の雲行きが怪しくなってきた。海外パビリオン建設工事の遅れなどの問題が噴出しているのである。大阪府政・市政を握る維新の会は、なぜかこの問題をつい最近までスルーしてきた。統一地方選があるから隠したということか。

海外館の申請ゼロ

 万博の目玉商品と言えば、参加国のパビリオン(展示館)である。年配の方なら、1970年に行われた大阪万博の象徴として、アメリカ館が展示した「月の石」を覚えておられるだろう。その海外パビリオンの建設工事が進んでいない。大阪市への許可申請が現時点で1件もないのだ。

 今回の万博ではパビリオンの設置に3つの方法が用意されている。出展国が費用を負担して独自に建てる「タイプA」、万博協会が建築した施設を出展国に引き渡す「タイプB」、そして建物の一部区画を借りて使う「タイプC」だ。

 問題となっているのは、56か国・地域の出展が見込まれるタイプA。建設するには建築基準法にもとづき大阪市に「仮設建築物許可」を申請する必要があるのだが、7月20日時点で申請はゼロ。最初の手続きにあたる「基本設計書」の提出すら、まだ9か国しか行っていないのである。

 なぜ申請が行われていないのか。国内ゼネコン各社との工事契約締結が進まないのが主な要因だ。建設業界によると「資材価格の高騰」と「深刻な人手不足」、そして万博開幕までの「工期の短さ」がネックになっているという。

 運営主体である万博協会の石毛博行事務総長は7月13日、「年末までに着工すれば開幕には間に合う」との認識を示したが、無責任な楽観論というほかない。ある大手ゼネコンの担当者は「着工遅れで難しい工事を短期にこなす必要があるうえ、仕事に見合う費用を出してもらえるのかも分らない」と受注側の不安を代弁する(7/13毎日)。

 別の大手ゼネコン幹部は「もはやいくらお金をもらっても出来ないことは出来ない」(7/14読売)と言い切る。最近相次ぐ「着工遅れ」報道は、リスクばかり高くて利益が少ない案件を押しつけられることを嫌ったゼネコン側のリークが元ネタではないか。

「いのちを削る」事態に

 工期の遅れを取り戻すために突貫工事が強行されれば、労働者の安全が脅かされることは確実だ。2022年のサッカーW杯カタール大会では、スタジアム建設や周辺インフラ工事に従事した労働者の命が多数失われた。酷暑の中で長時間過密労働を強いられたことが原因である。

 「大阪は大丈夫だ」とは言えない。万博に出展するカナダ政府の代表は、大阪市の高橋徹副市長と意見交換した際、次のような要望を口にした。来年度から建設業の残業時間に罰則付きの上限規制が設けられることに触れ、「万博の建設では(残業を)例外的に認めるなど、柔軟に対応してほしい」と求めたのだ。

 こんな例外が認められたら、万博開催を強行するために「いのちを削る」事態が生じかねない。ちなみに、今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」という。ブラックジョークにもほどがる。

維新の責任逃れ

 万博協会はタイプAでの出展を予定する国に対し、建設業者への発注などを日本側が担う建設代行案を提示した。費用はあくまでも参加国持ちだというが、どこまで自己負担に応じるかは見通せない。当初想定の1250億円がすでに1850億円にふくらんだ会場建設費がさらに上ぶれする可能性が高い。

 会場建設費は政府、大阪府・市、財界が3分の1ずつ負担する仕組み。すなわち建設費の増加は公費負担の増加を意味している。この惨状を「身を切る改革」が売りの維新の会はどう説明するつもりなのか。

 吉村洋文府知事は7月14日、岸田文雄首相と5月末に面会した際、国としての対応を要望したと明らかにした。吉村知事が言うには、首相はパビリオン建設の遅れなどの問題を認識していなかったという 。

 えー、今回は国を悪者にしてドヤ顔ですか。自分の責任は棚上げするのが吉村流だ。そもそも建設業界は、昨年9月の段階で会場準備の致命的な遅れに警鐘を鳴らしていた。吉村はこのことをおくびにも出さず、先の統一地方選では大阪での万博開催を維新の成果として大宣伝していた。やり方が汚いのである。

 大阪万博の会場である埋立地・夢洲はカジノ・IRの建設予定地でもある。博打場のインフラ整備に大金をつぎ込むことを正当化するために、維新は夢洲での万博開催に固執し、実現させた。つまり万博は大阪の人びとが必要性を感じて求めたものではない。中止が妥当な選択だろう。(M)
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS