2023年08月04日 1783号

【読書室/絶望の自衛隊 人間破壊の現場から/三宅勝久著 花伝社 1700円(税込1870円)/隠蔽の陰で横行する暴力、いじめ】

 自衛隊で受けた性被害を実名で訴えてきた元陸上自衛官の五ノ井里奈さん。加害者の元隊員と国に損害賠償を求める訴訟を6月に起こした。「今もハラスメントで苦しむ現役の自衛官が多い。その人たちのためにも、自分自身のためにも、裁判で真実を明らかにしたい」と強調する。

 実際、五ノ井さんのもとには現役隊員や元隊員から性被害の体験が多数寄せられている。その内容がすさまじい。▽飲み会の席で准尉から胸をもまれ、キスをされたが周りは見て見ぬふりだった▽(演習中)3等陸尉から強制性交された。警務隊の事情聴取の内容を部隊内で漏らされ、誹謗中傷されるようになった▽男子営内班に連れ込まれ、部屋にいる隊員に服を脱がされ、何度も犯された―。

 本書は、自衛隊でまん延する理不尽な暴力に異議を唱えた人の声を集めたルポルタージュである。体罰や屈辱的行為の強要といった私的制裁、組織的な事実の隠蔽(いんぺい)など、旧日本軍の「伝統」が自衛隊に受け継がれていることがわかる。

 陸自の高等工科学校の教官や上級生からいじめを受け、退校に追いやられた青年によると、校内では露骨な民族差別発言が日常茶飯事だったという。旧日本軍の戦争犯罪をデマ呼ばわりする集団もいた。

 元海上自衛官は「もし戦場に行くようになれば、いま以上に桁違いの人が、辞めるか、逃げるか、死ぬでしょう。間違いない。死ぬというのは、戦闘でという意味じゃありません。自殺です」と断言する。

 著者が言うように、自衛隊は人権意識を奪い尽くす「人間破壊工場」だ。軍隊が住民を守らないのは必然なのである。   (O)
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