2023年08月18日 1785号

【イラク労働者共産党サミール・アディルさんに聞く/反戦運動の中心に社会主義者/イラク戦争20年 左派結集に新たな前進】

 イラク労働者共産党(WCPI)のサミール・アディルさんが4年ぶりに来日し、横須賀市で開催されたZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)に参加した。くしくもイラク戦争から20年。「石油のために血を流すな」と全世界の反戦運動は一致して米国主導の侵略戦争に反対した。だが今、ロシアによるウクライナ侵略に必ずしも一致した状況にはない(参考資料)。戦争を止めるためには、統一した運動が必要だ。イラクでは、米占領に非武装の市民レジスタンスからIFC(イラク自由会議)を組織して闘った経験を踏まえ、新たな左派統一の動きがある。どう闘うのか聞いた。

(7月30日。まとめは編集部)


ウクライナ戦争を止めるには反戦運動を一つにする必要がある。何が必要と思うか。

 左派と言っても一つにまとまっているわけではない。ある潮流は「反帝国主義」の立場からロシアを支持し、別の潮流は「民主主義擁護」を掲げ、米国を支持する。

 イラク戦争の時は、米占領反対で一致したが、今の状況は第一次世界大戦の時に似ている。左派勢力は、戦争が始まるまでは国際主義者であったが、いったん戦争がはじまると、ロシア支持、ドイツ支持に分かれ、みんな民族主義者になってしまった。

 今日、左派勢力は展望を見失っている。ウクライナ戦争は、ウクライナの主権・独立をめぐる戦いではない。帝国主義大国・グローバル資本主義ブロック間対立の先にあった戦争だ。資本主義世界の政治経済システムを、数十年にわたる米国一極から、米国、欧州、ロシア、中国の間で覇権を奪い合う多極化への動きだ。だから、戦争と軍国主義が世界を覆ってしまっている。

 DSA(アメリカ民主主義的社会主義者)が東アジアで国際会議を開催する提案をしたことは重要な意味がある。日本、米国に反対し、中国、ロシアにも反対を掲げる会議は新たに左派勢力を一つにすることができる。

 ここには社会主義をめざす人びとが結集することになる。いまや社会主義者だけが展望を示すことができるからだ。ZENKOの決議でロシアにもNATO(北大西洋条約機構)にも反対と打ち出せたのは、MDS(民主主義的社会主義運動)やDSAなど社会主義者が参加しているからだ。

 こうなっていないのが、欧州の左派の状態だ。イラクでもイラク共産党など左派政党が8つあるが、こぞってプーチンの写真を掲げ、支持している。共産主義を名乗っても実際には民族主義者以上に民族主義になっている。WCPIは、プーチン、バイデン、マクロン、ショルツの顔写真に戦争犯罪人、指名手配≠ニ書いたポスターを張り出した。

 DSA、MDSやWCPIの間には意見が異なるところもあるが、こうした会議などを通じて左派を結集していくことができる。左派を一つにしてこそ勝利することができる。

イラクでの左派結集への動きはどう進んでいるのか。

 今のイラクは、米国とイランイスラム共和国の影響下にある。

 政教分離の立場の人やクルディスタンの人びとなどが抱く大きな幻想がある。もし米国の影響がなくなれば、イスラム政治勢力が支配し、状況はますます悪くなると考えている。2019年、イラクで起きた一斉蜂起の背景にもなっているのが、20年来、社会的インフラは整備されず、電気事情も一向に改善されないことだ。これはイスラム主義政権の腐敗のためであり、気温が48〜52℃になってもクーラーが使えないのは、イラン支配の影響のせいだと米国はマスコミを通じて宣伝している。

 しかし、WCPIはイラクにおける米国の存在こそがもたらしているものだと訴えている。イスラム政治勢力の民兵が市民を攻撃する口実が「こいつらは親米、帝国主義の手先だ」。だから19年蜂起の時、われわれのスローガンは「イランにノー、米国にノー」だった。

 WCPIは抗議運動に立ち上がった人々を統一する方針を決めた。石油労働者をはじめ200近い民営化された元国営企業の労働者や失業者、学生などいろんな分野の人びとが合流する円卓会議を主導してきた。昨年10月のバスラをはじめ各都市で開催してきた。特に学生や若い労働者の間に社会主義思想が広がっている。WCPIの政治局には21歳、23歳、26歳の若者が入った。強力な共産主義者たちだ。

 以前のIFCのような、反米、反イスラム主義、政教分離の政府をめざす連合体をつくるための準備会を2月に結成した。

 イラクは政府も法も機能せず、民兵により支配されている。だからすべての地域で市民による評議会(ソビエト)を結成し、行政サービスを提供し、権力を取り戻すことを議論している。市民レジスタンスの経験を活かしていきたい。

 準備会にはスーダンやチュニジア、レバノンの左派を招待し、それぞれの社会変革の経験を共有した。10月には結成大会を開催する。是非クオータ制を採用し、女性の参加を保証したい。

週刊MDS読者、ZENKO参加者に一言を

 今回、ZENKOを横須賀で開催したことを高く評価する。日米の軍事施設がそろう地で、ZENKOは強力なメッセージを発した。運動の側だけでなく、軍拡を進める政府に対してもだ。さらに、パレスチナ人民との連帯を方針に加えたことは、東アジアだけではなく、世界の平和に関心を向けるメッセージとなった。

 軍事演習が常態化する不安定な東アジアで、反米、反NATO、反中国、反ロシアを掲げた意味は大きい。イラクに帰って、モロッコやパレスチナの左派と意見交換する予定がある。その際、あらゆる課題が網羅されているZENKOの決議を紹介するつもりだ。

参考資料

 DSAのウェブサイトニュース(2023年4月28日付け)に「ウクライナ戦争についての欧州左派の主張」という記事が載った。一部を要約し紹介する。

 当事国のウクライナとロシアでは、社会主義的左派は戦争前から弱小勢力で、開戦後は一層厳しい状況に置かれている。ロシア共産党指導部は戦争支持だが、党員の一部は他の社会主義運動の活動家たちと「左派反戦円卓会議」声明を発し、即時停戦、撤退を求めた。ウクライナでは2015年に共産党は禁止され、侵攻後には「対ロ協力者」だとして社会主義や進歩的政党は禁止された。左派グループ「社会運動」は軍事的抵抗を支持し、メンバーが予備部隊に加わっている。

 ドイツ左翼党は昨年の党大会でロシア侵攻を非難し、ウクライナへの軍事支援にも反対した。だが、党内にはロシアのガス輸入のためにロシア制裁停止を求める意見との内紛があり、支持者離れを起こしている。

 フランス社会党と緑の党はウクライナ軍事支援に賛成し、ロシア制裁を支持。「不服従のフランス」、フランス共産党も同様だ。しかし両党の党首は、平和交渉を重視する立場を表明している。

 イタリアでは急進左派政党や小規模政党でつくる人民連合などは、軍事支援に反対し、NATOにも批判的だ。

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