2023年08月18日 1785号

【中央最低賃金審議会が目安/1002円では全く足りない/時給1500円は待ったなし】

 厚生労働省は7月28日、中央最低賃金審議会でとりまとめられた来年度の地域別最低賃金額改定の目安を公表した。目安どおりに各都道府県で引き上げられれば全国加重平均時給1002円、上昇額は41円(昨年度31円)となる。目安はAランクとされる地域で41円、Bランク40円、Cランク39円で現在も深刻な地域格差はさらに拡大する(表1)。



 最低賃金は、経営者が労働者に必ず支払う必要がある最低限の賃金である。審議会の目安を参考に、8月中には都道府県ごとに決め、10月から改定される。岸田政権は「1000円の目標」を掲げ、目安はこれに沿った形だ。

 しかし、これではまったく不十分だ。消費者物価上昇率は直近で3%を超え、生計費負担の増加は低賃金で働く労働者を直撃している。物価高での目減りを補い実質的な水準を大幅に押し上げるには、少なくとも1500円を早急に実現することが必要だ。

異常に低い日本の最賃

 今回の目安、時給1000円に達しても、週40時間働いて年収は200万円に満たない。

 この日本の最低賃金の伸びが世界から大きく見劣りすることが経済協力開発機構(OECD)の統計で浮き彫りになった。OECDは7月11日、2023年の雇用見通しを発表。最低賃金制度を持つ30か国のデータを集計した。日本は20年12月から23年5月の伸び率が名目6・5%増、物価変動を考慮した実質で0・7%増だった(図1)。コロナ禍から急激な物価上昇のこの時期、日本の最低賃金の伸び率は異常に低い数字にとどまっている。



 インフレ率などに連動して最低賃金が伸びるポーランドは名目で34・2%増だ。最賃引き上げを求める労働者の闘いは各国に広がっており、米国、英国、ドイツは16〜28%伸びた。米国を除く29か国の平均では名目29・0%増、実質2・3%増。日本はいずれも平均の3分の1にも届いていない。米国ワシントン州は2195円、オーストラリアは1965円、フランスは1690円と、日本をはるかに上回る。時給1000円は世界に取り残されていく。

 地域間の格差も大きな問題である。最低賃金最高額の東京都1072円と青森など10県の853円では、2割もの差がついており格差は拡大している。

 生計費調査によると、最低生計費は全国でほとんど差がない。都市では住居費が高いものの、地方は自動車を利用する人が多く維持費などが必要だからだ。

 地域間格差を撤廃し、全国一律にしなければならない。日本弁護士連合会も会長声明(4月14日)で「目安制度に代わる抜本的改正案として、全国一律制実現」を求めている。

 中小企業の側でも引き上げを認める声が広がっている。日本商工会議所・東京商工会議所の調査(3月公表)では、最低賃金を「引き上げるべき」と回答した企業は、23年に42・4%と、21年28・1%から増加を続けている。逆に「引き下げるべき」「現状の金額を維持すべき」の合計は、21年56・6%から23年33・7%へと年々減少している。

中小零細支援と一体で

 最低賃金近く(最低賃金×1・15未満)で働く労働者は中小零細企業に多い。その典型である卸売・小売業では、女性労働者の34・48%(約98万人)が最低賃金近くで働く。宿泊業・飲食サービス業では、女性労働者の46・74%(約53万人)に上る。窮状は深刻だ。

 これらの業種の大半がコロナ禍で深刻な打撃を受けた。だが、「中小企業淘汰・再編」をめざす岸田政権は必要な補償、支援を行っていない。むしろ公的融資打ち切りなどで倒産を急増させている。

 最低賃金を直ちに時給1500円に引き上げることが必要だ。危機的状況の中小零細企業への抜本的な支援策を行うと同時に、グローバル企業による市場占有、中小零細への絶対的な発注価格支配、収奪体制に対する規制こそ強化しなければならない。
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